MEMORANDUM

  春色の馬車に乗って

♪ 春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ
  松田聖子「赤いスイートピー」(作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂)

◆ 「赤いスイートピー」のこの歌詞で思い出したが、横光利一に「春は馬車に乗って」という短篇がある。

◇ 「この花は馬車に乗って、海の岸を真っ先きに春を撒き撒きやって来たのさ」
横光利一『春は馬車に乗って』(青空文庫,1926

◆ この短篇の最後、「胸の病気」を患い痩せ衰えた妻に、夫が花束をプレゼントする場面。この花もスイトピーだった。ただし、色は書かれていない。

〔Wikipedia:スイートピー〕 スイートピーを題材とした歌に『赤いスイートピー』があるが、この歌が世に出た1982年1月当時に、赤色の花をつけるスイートピーは存在していなかった。しかし、写真にもあるように、その後、品種改良によって赤色のスイートピーも誕生した。
ja.wikipedia.org/wiki/スイートピー

◆ 「写真にもあるように」とあるが、同ページの画像のスイトピーはどうみても、赤ではなくてピンクだろう。それはさておき、松田聖子のスイートピーが赤いのは、青いバラと同じく、この世のものではないことを表しているのだろうか。「心の岸辺に咲いた」ともあるから、そんな気がしないでもないが、「線路の脇のつぼみは」ともあるから、たんに赤系の(たとえばピンクの)スイトピーを歌っただけという気もする。

◇ Like the blue rose, the yellow sweet pea remains elusive, and a true yellow is unlikely ever to be achieved without genetic engineering.
en.wikipedia.org/wiki/Sweet_pea

◆ 青いバラと同じく、遺伝子組換えなしに、この世に存在しないのは、赤いスイトピーではなくて、黄色のスイトピーらしい。

◆ 横光利一の「春は馬車に乗って」の舞台は、作中に地名が出てくるわけではないが、自伝的要素からは三浦半島の西側の付け根にある逗子だということになる。

〔神奈川近代文学館:神奈川文学年表〕 1926年6月24日、横光利一(28)、妻キミが逗子小坪の湘南サナトリウムで死去する。
www.kanabun.or.jp/0f16.html

◆ そうして、

◇ 切り花としての日本でのスイートピーの栽培は、明治末期に神奈川県の三浦半島で始まりました。
sweetroom.dreamlog.jp/archives/985198.html

◆ ということらしいから、小説を読んだときには、1926年の日本におけるスイトピーの位置づけがよくわからなくて、少々ハイカラすぎる気もしたが、そういうことであれば、

◇ 或る日、彼の所へ、知人から思わぬスイトピーの花束が岬を廻って届けられた。

◆ という箇所にも十分納得がいったわけなのだった。

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