MEMORANDUM
2009年06月


◆ おしゃべりなひとはいつもおしゃべりだが、無口なひとが無口であるのは時と場合によることが多い。『欲望という名の電車』のブランチとステラの姉妹。姉ブランチがしゃべり通しなので、妹ステラは口をはさむ機会がない。そんなことはお構いなしに、姉は「どうしてひとこともしゃべらないの?」と妹に質問しさえする。

◇ ブランチ そう? ――私、忘れていたんだわ、あんたが無口だってこと。
ステラ 姉さんがあたしにしゃべらせてくれなかったのよ、いつだって。だからあたし、姉さんの前では無口になる習慣がついてしまったの。

T・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』(小田島雄志訳,新潮文庫,p.20)

◆ 親子でもそんな関係になることがある。

◇ 私は無口だったので、母は私が「知恵遅れ」だと本気で思ったらしい。小学校に入る前に、専門家の知能検査に連れて行かれた覚えがある。とくに「知恵遅れ」ではなかったが、口をきかなかったのはたしかである。それは母がしゃべりすぎるからで、私の代わりにしゃべってしまうのだから、本人は黙っているしかなかったのである。
養老孟司 『脳のシワ』(新潮文庫,p.39)

◆ もちろん、そんな関係は、親子兄弟にかぎらず、世の中のどこにでも転がっている。夫婦でも友人でも同僚でも。ただ、適当な例文がみつからない。

◆ 5月31日、東京競馬場。ダービーの日。レースが終わり、表彰式のさなか、優勝馬がその場からそっと去ってゆく。つづいてブラスバンドも役目を終えて帰途につく。みな去り際をまちがえない。けれど、表彰式が終わっても、まだしゃべり続けているひとがいる。おしゃべりなひとに口をはさむのは、かなり気が疲れる仕事である。だが、放っておくと日が暮れて、みなが途方に暮れる。さて、どうしたものだろう。

◇ 五月のはじめの、たそがれどき。ほの白いこの建物の周辺に見える空は、異様なまでにやわらかな青色であり、ほとんどトルコ玉の青緑色と言ってよく、それがこの情景に一種のリリシズムを与え、荒廃の雰囲気に優雅なやわらぎを与えている。
T・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』(小田島雄志訳,新潮文庫,p.7)

◆ トルコ玉、トルコ石、ターコイズ。先の記事で「なぜだかトルコ石が好きだった」と書いたが、それ以降、ぼんやりとその理由を考えている。色だろうか? 不透明で青から緑に移り変わるその色は、saturnian 色といってもいいが(笑)、たしかに好みだ。あるいは、名前だろうか? トルコだま。トルコいし。ターコイズ(コトバの引力で、先日ふらっとトルコ料理店に入り、最後に、Tea or coffee? と聞かれ、トルココーヒーが飲みたかったワタシは迷うことなく coffee と答えたのだが、出てきたコーヒーはふつうのコーヒーだった)。あるいは、12月生まれのひとを、かつて好きだった、ことがあった、りしたのだろうか? というわけで、「なぜだか」トルコ石が気になっているうちに、もう6月だ。

◆ 砂のない砂場、水のないプール、金魚のいない金魚鉢(金魚)。それから、なんだろう? 子どものいない母親、花嫁のいない花婿、出す宛てのない手紙。それから、なんだろう? とっくに去っていったひとへの「さよなら」、もう会うこともないひとへの「じゃあまたね」。それから、なんだろう? 不幸せな幸子(「幸」住むと人のいふ)。

◆ そういえば、井上陽水に「招待状のないショー」という曲もあった。

♪ 誰ひとり見てない 僕だけのこのショー 好きな歌を 思いのままに
  招待状のない ささやかなこのショー 恋を胸に 闇に酔いつつ
  声よ 夜の空に 星に届く様に
  声よ 変らぬ言葉とこの胸が はるかな君のもとへ 届く様に

  井上陽水 「招待状のないショー」(作詞:井上陽水)

◆ と、この歌でこの記事を締めくくれば、哀しみもちょっとは中和されて、そんなにハナシが暗くなくなるだろうと思ったのだが、いや、もうひとつ思い出してしまったから、しようがない。「招待状のないショー」が収録されている同名のアルバム『招待状のないショー』のなかのべつな曲、「今年は」にはこんな歌詞。

♪ 指切りが出来ない指 やさしさを抱けない腕
  井上陽水 「今年は」(作詞:井上陽水)

◆ この歌、ちょっと凝ったつくりになっていて、この歌詞に答えるようにだれかの声で「それはさみしかろう?」とささやくのである。いや、まったく。さみしい、さみしい。さみしくって、たまらない。あ~あ。

◆ あいかわらずトルコ石のことを考えている。トルコ石のことを英語風にターコイズと呼ぶひとも最近では多いのだろう。で、英語の turquoise。

〔The Turquoise Guide〕 Ask any random person why turquoise is so named. Most will look at you like you are a fool and inform you that turquoise (the gem) is named after turquoise (the color)! Most individuals seem to believe that the color name came first and was applied to the stone.
ターコイズがそのように呼ばれるのはなぜか、と手当たり次第に尋ねてみれば、ほとんどのひとが、なにをバカなことを聞くのかという顔をして、宝石のターコイズは色のターコイズから来てるんだよ、と教えてくれるだろう。色の名前が最初にあって、それを石の名前にあてはめたと思っているひとがほとんどなのだ。

www.turquoiseguide.com/articles/turquoise/turquoise-basics/name.htm

◆ なるほど。ホントかどうかはしらないが、そういうこともあるだろう。オレンジがオレンジ色なのはどうして? スミレがスミレ色なのはどうして?

◆ 日本語ではどうかと「ターコイズ色」で検索してみたら、通販の《イマージュネット》というサイトにこんな画像が……。これは、スゴイ! なんでも、「ターコイズ色の美しいノンワイヤーブラ&ショーツ」というものであるらしい。[TURN] というところをスライドさせれば、おお、画像が回転するではないか! なんと、後ろからも前からも楽しめるのであった(失礼)。いや、まあ、とにかく、これがターコイズの色見本ということで。

◆ 女性の下着と宝石。どちらも同じく身に着けるものとしての共通点を考慮すれば、またべつの、さまざまな考察が可能になるだろうけれども、そのためには、「シフォンに縦柄刺繍のふんわり水色ブラ&ショーツ」だとか「女の子のためのお泊りアイテム4点セット/ピンク」だとか「ラベンダー色の美しい丸胸メイクブラ&ショーツ」とかいったコトバにこめられた意味を、じっくりと検討する必要があるような気もするので、とりあえず、試しに「花とレースのハーモニーが涼しげなブラ&ショーツ ¥3,129(税込)~」でもネットで購入してみようかと……は思わなかったが、気がつくと、数十分が経過していたりもするのだった。

◆ 先日、仕事で「ベリーズ大使館」宛ての荷物があった。大使館とあるからには「ベリーズ」は国名なんだろう。けれど、そんな国は聞いたこともない。もしかしたら風俗店かもしれんな、とも(想像力豊かなワタシは)思ったが、伝票の住所を訪ねると、建築中ではあったが、そこにはたしかにベリーズ大使館があったのだった。

〔ベリーズ国政府観光局〕 ベリーズはユカタン半島の付け根に位置する、カリブ海に面した中米の四国程の小さな国です。旧英領なので英語圏で、他の中米諸国とは少し違うカリブ海的な雰囲気を持っています。
www.belize.jp/

◆ 旧英領ホンジュラス。1981年独立。首都はベルモパン(Belmopan)。「ベリーズ(Belize)」という国名は、《Wikipedia》によると、

◇ 国名の由来はマヤ語で「泥水」を意味する言葉から来ているとされている。
ja.wikipedia.org/wiki/ベリーズ

◆ なぜ「泥水」が国名になるのかというと、この泥水というのはベリーズ川のことらしくて、

◇ The origin of the name Belize is unclear, but one idea is that the name is from the Maya word belix, meaning "muddy water", applied to the Belize River.
en.wikipedia.org/wiki/Belize

◆ ついで、ベリーズ川の河口に位置する町の名前もベリーズシティー(旧首都)と呼ばれるようになり、

◇ Le Belize se nommait autrefois le Honduras britannique. La dénomination actuelle provient du nom de l’ancienne capitale et du fleuve du même nom.
fr.wikipedia.org/wiki/Belize

◆ さらには、国名になったということらしい。

〔朝日新聞:天声人語(2009/06/01)〕 名前の響きで損をしているが、ドクダミはかれんな花である。毒々しい「ドク」から、だみ声の「ダミ」と続く。だが花(実際は苞(ほう))は白い十字形をし、木(こ)の下闇(したやみ)などに星を散らしたように咲く。
www.asahi.com/paper/column20090601.html

◆ この「天声人語」の文章、「名前の響き」について書こうと思って用意したのだが、そのまえにべつなことを書いておきたくなった。「星を散らしたように咲く」ドクダミの花(実際は苞)。薄暗がりに白く光るドクダミの星座。そんな風にドクダミを見たことがなかったので、それからしばらくのあいだ、あちこちに群生するドクダミを見かけては、昼間の地上に星を見ようと努力してみたのだけれど、ワタシの目はふしあななのか、いかなる星座も映りはしないのだった。星に喩えるには、ドクダミの花(実際は苞)は、少々大きすぎるのではないだろうか。

◆ ドクダミのつぎにはテントウムシ。さいきんテントウムシがやたらに目につく。そういう時期でもあるのだろうし、これまで目にはいらなかったのが、なにかのきっかけで目にはいるようになったのかもしれない。そういえば、テントウムシにも星がある(のがいる)のだった。テントウムシの星、あれは地上の星と呼んでもいいだろうか? 羽があって飛ぶこともできるものにたいして、「地上の」という形容は失礼ではないだろうか? そう思いもしたが、飛んでいるときには、その星は見えないわけで、われわれがテントウムシに星を見るのは、きまって地上においてなのだから、やっぱり「地上の星」でいいんだろう。それから、「地上の星」といえば、やっぱり中島みゆきでいいんだろう。

♪ 風の中のすばる 砂の中の銀河
  〔中略〕
  草原のペガサス 街角のヴィーナス
  〔中略〕
  崖の上のジュピター 水底のシリウス

  中島みゆき 「地上の星」(作詞:中島みゆき)

◆ ヴィーナスとジュピターがあって、サターンがないのがちょっと残念。糸井重里が、とりあえずはといった調子で、「たしかに、ぼくもこの歌、この詩はすごいなぁと思う」と書き、つづけて、

〔ほぼ日刊イトイ新聞:ダーリンコラム〕 風のなかにすばるという星座を、砂の中に銀河を、草原にペガサス座を、街角にヴィーナスという火星を見る視線。
www.1101.com/darling_column/archive/2005-04-04.html

◆ と書いているが、ヴィーナスは火星じゃないよ。もうひとつ、さいきん出会った地上の星があって、それは『欲望という名の電車』の登場人物ステラ(Stella)。ステラはラテン語で星。そういえば、6月7日(日曜日)、引越の仕事で行った調布駅そばのアパートの名前が「メゾン・ステラ」だったが、写真を撮り忘れた。

◆ となりに抜け殻があるから、コイツがさなぎから抜け出てきたんだろう、と思っただけで、羽化の瞬間を見ていたわけではないのだけれど。正面からカメラのレンズを間近に寄せても動かないので(左)、これさいわいと写真を撮り続けていたら、さすがにうっとうしくなったのか、一歩、また一歩、前進し始めた(右)。それで、ああ、はじめの一歩だなあ、とちょっと感動したのだったが、よく考えると、コイツは幼虫からさなぎを経て成虫になったわけで、いま生まれたわけではない。幼虫のころも、さんざん歩き回っていたのだろうから、はじめの一歩というわけにはいかないだろう。そもそも、さなぎという状態が人間には理解しがたいもので、さなぎから出てくるものを見れば、どうしたって「誕生」といった内容のことを思ってしまうのではないだろうか? それで、この写真のタイトルも「生まれたてのテントウムシ」にしようかと思ったりもしたのだが、やっぱり、いま生まれたわけではないしなあ、とまあ、あれこれ思案していたら、こんなコトバに出会った。

◇ できたてのテントウムシ。テントウムシの羽化は初めて見ましたが、感動的でした。また、テントウムシを見て「美しい」と思ったのも初めてでした。
blog.goo.ne.jp/hotarimo/e/944f52b367e1d0fd5d76bbdd8a190ddf

◆ できたてのテントウムシ! こりゃいいな、と思って、この表現を拝借した次第。

◆ テントウムシ(ナミテントウ)の幼虫(左)、蛹(中)、成虫(右)。

◆ 完全変態をする昆虫は「卵→(孵化)→幼虫→(蛹化)→蛹→(羽化)→成虫」という過程を経て成長するわけだけれども、特にさなぎ(蛹)。やっぱり人間にとって、さなぎの段階というのはまったく不思議なものだ。

さなぎ 【蛹】 完全変態をする昆虫が幼虫期と成虫期との間に経過する特殊な発育段階。幼虫器官の退化と成虫器官の形成が起こる。はね・胸脚などを備えるがほとんど機能しない。普通は移動せず、食物もとらない。蛹虫(ようちゆう)
三省堂 「大辞林」

◆ 「普通は移動せず、食物もとらない」とあるのは、なかには移動するものもいるからで、

◇ ほとんどの蛹は運動性がなく、じっとしているか、刺激を受けるとひくつくような動きを見せるだけだが、激しく運動するものもある。ヘビトンボの蛹は多少は歩いて噛み付いたりする。トビケラ類の蛹は水中にあり、羽化時には蛹が足を動かして水面に泳ぎ上がり、そこで羽化する。また、カやユスリカの蛹も泳ぐことができる。カの蛹はその姿からオニボウフラと呼ばれる。ツリアブなどの蛹は、穴を掘って体の上半身を空中に出して羽化する。
ja.wikipedia.org/wiki/蛹

◆ なるほど。ちょっと、びっくり。蛹のなかでは「幼虫器官の退化と成虫器官の形成が起こ」っているらしいけれども、もちろん目にしたことはない。

◇ 蛹は成虫の大まかな外部形態だけが達成された鋳型であって、その内部は一部神経、呼吸器系以外はドロドロに溶解し、幼虫の体から成虫の体への造り変えが進行している。〔中略〕 蛹を解剖すると、中身はペースト状の液体しかない。
Ibid.

◆ 「ドロドロに溶解」「ペースト状の液体」。なるほど。かなり、びっくり。もし機会があっても、さなぎの解剖はしたくない感じ。

〔ほぼ日刊イトイ新聞:虫博士たち。〕 ところで同僚と虫の話をしていたら、「虫は宇宙人に違いない」ということになりました。やつら、幼虫から成虫になるとき、サナギの皮(?)一枚残して、中で「自らの肉体を一度とかして作り直す」っちゅうんです。
www.1101.com/dr_insect/2005-11-06.html

◆ 宇宙人かあ! 不思議すぎますね。

◆ 知らず知らずのうちに同じ被写体を同じアングルで撮っていたということが時々ある。たとえば、谷中霊園のラクダ。

◆ たとえば、哲学堂の妖怪門。

◆ たとえば、狸小路7丁目。

◆ ほかにもまだまだあるだろうと思う。

♪ ホテルはリバーサイド 川沿いリバーサイド 食事もリバーサイド
  井上陽水 「リバーサイドホテル」(作詞:井上陽水)

◆ リバーサイドホテルなら全国各地(いや、世界各地に)にあるだろうが、グレイブサイドホテルとなるとどうだろう? 念のためざっと検索してみたが、そう簡単には見つかりそうもない。

♪ HOTELはGRAVESIDE 墓沿いGRAVESIDE 食事もGRAVESIDE

◆ 谷中霊園沿いに「HOTELニューさつき」はある。部屋の窓を開ければ、墓地が見えるだろうが、だれも窓を開けないだろう。食事も墓沿いになるはずだが、レストランはないだろう。

◆ 6年も前の写真だから、この電話ボックスはもうないのかもしれないが、まあまあ。電話ボックスのうえに、電電公社のマーク、それから「ダイヤルは途中休まず最後まで」という標語。電話ボックス自体がなつかしく思える日もそう遠くはないような気もするが、とりあえずはまだあるのだろう。電電公社はもうないし、ダイヤル式電話は、あるところにはあるのかもしれないが、さっぱり見かけない。《Wikipedia》によると、電電公社のマークは「TTSマーク」というのだそうで、

◇ 電電公社の公式マーク(公社章)は、「電報(Telegraph)と電話(Telephone)」の頭文字の2つのTで円を作り、中央にサービス(Service)の頭文字Sを据えてデザインしたものであった。国土地理院制定の電話局の地図記号にも使われたが、民営化翌年の1986年(昭和61年)に廃止された。
ja.wikipedia.org/wiki/日本電信電話公社

◆ 真ん中に「S」の文字まであったとは。まあ、「T」がふたつあったのさえ気がついていなかったんだけども。なるほど。シンプルでいいデザインだった。ついで、標語。「ダイヤルは途中休まず最後まで」。途中で休んでしまうとどうなるか?

♪ ダイヤル回して 手を止めた
  I'm just a woman, fall in love

  小林明子 「恋におちて」(作詞:湯川れい子,1985)

◆ そう、恋におちるのである。そうそう、この英語の部分、歌詞サイトをあれこれ見ても、「fall in love」と書いてあるけど、どうして「falling in love」ではないのだろう。よくわからない。「ダイヤル回して 手を止めた」の部分も「ダイヤル(を途中まで)回して 手を止めた(ので、相手には発信されなかった)」という意味なのか、「ダイヤル(を最後まで)回して (発信音を相手に残してから)手を止めた」という意味なのか。まあ、ダイヤルを最後まで回せば、それで相手につながるのだから、だれだって手を止めるほかないわけで、ダイヤルを途中まで回して切ったということなんだろうけど、なにしろこれは「歌詞」だから、油断はできない。相手に発信音を残してから電話を切ったという可能性もないではない。するとどうなるか。

♪ 夜更けの電話 あなたでしょ
  話すことなど 何もない
  Making good things better
  愛は消えたのよ 二度とかけてこないで

  杏里 「オリビアを聴きながら」(作詞:尾崎亜美,1978)

◆ いまなら発信者の番号が表示されて、繰り返すとストーカーと呼ばれ、警察の世話になることだろう。

◆ さいきん、お寺の門前にある掲示板が気になって、見つけると写真に撮っている。

◆ 2009年6月14日、世田谷区桜丘。「南照山」久成院。上の枠に「一隅を照す」(最澄)とあるので、天台宗であることがわかる。ついで達筆で「巧言令色鮮矣仁」。これはもちろん論語から。仏教の天台宗と孔子の論語とのあいだにどんな関係があるのだろう? あまりに知識がないので、さっぱりわからない。署名(落款?)はと思って、画像を拡大してなんとか解読してみると、どうやら「妙門主 大僧正 信海」と書かれているようだ。大僧正というのは、兵隊さんの位でいうと、大元帥みたいなものかな。とにかく偉いんだろう。さっそく検索してみると、

菅原 信海 すがわら しんかい
1925年、栃木県日光市生まれ。51年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒業。現在、京都妙法院門跡門主。天台宗勧学院副院長。大僧正。望擬講。早稲田大学名誉教授。文学博士。京都古文化保存協会理事長。

www.shunjusha.co.jp/writer/23526/

◇ 菅原信海(すがはら・しんかい) 三十三間堂本坊妙法院門跡門主
 1925年、栃木県生まれ。東洋哲学、日本宗教思想史の研究家で、長く早稲田大で教べんを取った。早大文学部長、早大東洋哲学会会長などを歴任。現在、早大名誉教授、京都古文化保存協会理事長。

osaka.yomiuri.co.jp/university/ritsumei/rs51125a.htm

◆ 「すがわら」なのか「すがはら」なのか、それともどっちでもいいのか、よくわからないが、やっぱり偉いひとのようだ。とここまで調べて満足し、もういちど写真を見てみると、書のしたにカレンダーのようなものが写っているのに気がついた。拡大したら、このカレンダーのようなものはやっぱりカレンダーだった。うん? そうなのだ、この信海の書はカレンダーの一部で、掲示板にはその6月のページ(と右には7月のページ)がそのまま貼られていたのだった。現物を見たときに、印刷物であったことに気がつかなかったとは、いくらなんでも情けない。ついでに、このカレンダーも検索してみると、すぐに見つかった。《楽天市場》に「高級掛軸風カレンダー(大判)2009年版【一隅を照らそう染筆日暦】」、税込2,415円。

◇ 書が和紙に印刷されているので使用後も和紙を台紙からはずして、掛軸にしたり額にはめて楽しめる人気商品です。年末年始のご挨拶や和風インテリアに、また外国のお友達へのプレゼントに最適です。
www.rakuten.co.jp/senshin/497277/1062072/

◆ 製作しているのは、京都の《千眞工藝》

「一隅を照らそう」 染筆 日暦
宗祖伝教大師の教えを今に伝える天台宗心の暦。天台座主をはじめ高僧の方々の染筆でその教えの神髄を訴えます。

www.zengift-senshin.co.jp/onlineshop/nichireki/ichi.html

◆ 買おうかしらん。

◆ 「ファミール」という名のアパートやマンションを見るたびになんともいえない気分になる。

◇ ファミール。何ともマンションの名前としてはスタンダードな感じである。意味のわからなさ、恥ずかしさの薄さなど、パーフェクトな名前と言えるのではないか。まあ全部のマンションがファミールになっても困るけど。
www.ishidamaggie.com/mansion/ha2.htm

◆ このファミールというのはいったい何語なんだろう? 建物名以外にもファミールはあちこちにあって、

〔岡山県倉敷市・ファミール歯科〕 「ファミール」=フランス語で「家族(Famille)」という意味です。
www.famille-dc.jp/rinen.html

〔兵庫県加古川市・キッズ&レディースリサイクル ファミール〕 「ファミール」はフランス語で、「家族」という意味です。
www.famille-net.com/shop_photo.asp

〔長野県小諸市・ファミールテニスサークル〕 ファミールとはフランス語で「家族」という意味です。
famille.ojaru.jp/circle_1.htm

◆ 上記の3つのサイトでは、フランス語の「famille」から名づけたと明言している。URLにも「famille」が含まれている。つぎの2つはよく意味がわからない。

〔神奈川県横浜市・デイサービス ファミール寿苑〕 ファミールとはフランス語の名詞化(家庭的な)からきています。
www7b.biglobe.ne.jp/~famil/

〔埼玉県行田市・家族葬専用式場 ファミール行田〕 家族(Family)のための部屋(Room)、その名もファミール。
www.gyoda.co.jp/sikizyo/famile.htm

◆ 「フランス語の名詞化(家庭的な)」とはなんだろう? 「Family」に「Room」を足せば「その名もファミール」になるのだろうか? URLには、それぞれ「famil」「famile」とあって、何語だかわからない。さらにわからないのが、これ。

〔栃木県宇都宮市・ファミールしばた(りんご農園)〕 フランス語のファミーユ(家族)とアムール(愛)のダブル・ミーニング法(ひとつの表現の中に二つの意味)により家族愛的な雰囲気を表現するため『ファミール』と名付けました。
www.u-agrinet.jp/resource/rsc037.php

◆ ダブル・ミーニング法? 「愛(amour)」は「(ー)ル」だけか? どうせなら、「ファムール」のほうがいいんじゃないか? よくわからない造語法だが、フランス語の「famille」のカタカナ表記を「ファミール」ではなく「ファミーユ」としていることには注目していい。

◆ じっさい、フランス語で英語の「family」に相当する「famille」の発音は、「ファミール」ではなく「ファミーユ」に近い。南仏の都市「Marseille」は「マルセイル」ではなく「マルセイユ」だし、革命の発端となった「Bastille」は「バスチール」ではなく「バスチーユ」。

◆ だから、わざわざフランス語を持ち出して、「ファミールは家族という意味です」などと書くのはやめてほしい。いい加減に「なんとなくファミリーみたいな感じでつけました」というのであれば、納得する。

◆ 以前、「消えてなくなる」という記事で、公衆便所の落書きが消えてなくなったハナシを書いたが、ほかにも数多くのものが消えてなくなってしまったことだろう。

◆ 2003年3月11日に見た「中華そば三好」はもうない。

◆ 消えてなくなったもの。「平成の大合併」にともなって、多くの市町村名も消えてなくなった。たとえば、2003年3月17日の写真を昨日編集し直したのだが、その日に訪れた茨城県の撮影地の住所がすべて、撮影当時と現在とでは変わってしまっている。

・筑波郡谷和原村小絹 → つくばみらい市小絹(2006年3月27日)
・結城郡石下町新石下 → 常総市新石下(2006年1月1日)
・下館市二木成 → 筑西市二木成(2005年3月28日)

◆ カッコ内の日付で、つくばみらい市、常総市、筑西市が誕生し、谷和原村、石下町、下館市が消滅した。

◆ 左のお城の天守閣みたいな建物は、かつては石下町地域交流センター、いまでは石下町がとれてただの地域交流センター。右の「下館第三児童公園」は、筑西市になったいまでもそのままの名称であるようだ。6年も前の写真の整理をするのも楽ではない。

◆ 以前、「筑西市」というタイトルで似たようなことを書いた。

〔CNN〕 「ストレンジャー」など数々の大ヒット曲を持つ米歌手ビリー・ジョエル氏(60)と妻ケイティ・リー・ジョエルさん(27)は17日、共同声明で離婚すると発表した。
www.cnn.co.jp/showbiz/CNN200906180003.html

◆ というニュース記事を見て驚いた。驚いたのは、記事の内容ではなく写真だった。

◇ 私のビリー・ジョエルは、あの太ったオジさんじゃありません。
plaza.rakuten.co.jp/tmkmusic/diary/200812210000/

◇ 久しぶりに見るビリージョエルは、すごく太っていて別人みたいだった。〔中略〕 あんなのビリー・ジョエルじゃない。
blogs.yahoo.co.jp/baltucame/22110105.html

◆ そんな感じで、「これがビリー・ジョエル?」と驚いたのだった。けれど、コンサートを観に行ったひとは、口をそろえてる。「けれど、歌声は変わらない」。

◇ ステージに立っていたのは、昔ビデオで観たお兄さんではなく、ちょっと太ったジャン・レノみたいなおじさんでしたが、歌声は以前と変わらず私の心を癒してくれました。
clickclick.exblog.jp/3964411/

◇ 外見はジャン・レノやブルース・ウィルス通り越して、太ったレーニンのようになってしまった。でも歌声と鍵盤を踊る指先は、相変わらず素晴らしい。
blog.livedoor.jp/bach2005bach/archives/50686318.html

◇ 久しぶりに見たビリー・ジョエルはハゲ上がってるし太ってるし典型的なイタリアン人生を歩んでるようです。でもね、声がほとんど変わらないんです。逆に太った分だけ声の伸びが良くなったような・・・
blog.ac4u.jp/?eid=157077

年とったし太ったし、色々アクシデントあったみたいだけど、歌声はぜんぜん衰えてない!
allure.blog6.fc2.com/blog-entry-221.html

◆ どんなものかとワタシも聞いてみた。2006年11月、東京ドーム、曲は「ピアノマン」。すてきなビリーおじさん。

◆ ビリー・ジョエルで思い出した。もっと驚いたおじさんがいた。ミッシェル・ポルナレフだ。2007年、フランスで34年ぶりのコンサートツアー開催、といったニュースを見たときの画像に驚いた。

〔朝日新聞〕 巨大なサングラスと澄んだ甘い歌声で、60年代にデビューし一世を風靡(ふうび)した団塊世代のアイドル、ミッシェル・ポルナレフ。表舞台から遠ざかっていた人気歌手が、34年ぶりに祖国フランスで公演ツアー中だ。62歳とは思えないエネルギッシュな舞台と変わらぬ歌声で、連日超満員の会場を沸かせている。
www.asahi.com/culture/music/TKY200704100244.html

〔RFI Musique〕 Chemise blanche, gilet noir et pantalon de cuir noir, la silhouette s’est un peu épaissie, mais les boucles blondes et les lunettes blanches sont bien celles de la légende.
(白のシャツ、黒のベスト、黒の革ズボン、体の輪郭は少々厚みを増したが、金髪の巻き毛と白のサングラスはまさに伝説のそれだ。)

www.rfimusique.com/musiquefr/articles/087/article_16785.asp

◆ 少々(un peu)、か。ワタシも腹のあたりが「少々」ふっくらとしてきた。気をつけねば。

◆ このポルナレフ、2007年の「パリ祭」(7月14日)では、エッフェル塔の脚元のシャン・ド・マルス広場で、無料コンサートを行い、サルコジ大統領を含む60万人以上のファンが集まったとか。

◆ 左:ポルナレフとサルコジ。中:パリ祭のコンサートで「シェリーに口づけ」を歌うポルナレフ。右:「愛の休日」を歌う、少々厚みが増す前のポルナレフ。