◆ 「ウサギとカメ」という記事を書いたときに参考にしたサイトに、日本語では区別されないが、英語では別種として区別される動物のリストがある。 ●"turtle"「かめ」と "tortoise"「カメ」 ◆ なるほど。これは参考になる。このリストの前後も引用すると、 ◇ こんな風に日本語では、似ているという理由だけで、名前がいっしょくたになっているものが結構あり、特に動物などにそれが多い。日本人が生物に興味がないのか、それとも翻訳を監修した人の中に生物学に詳しい人がいなかったのかどちらかにちがいない。〔中略〕 でも、こうやって見ていると、細やかといわれる日本人も、こういった生物上では、かなり鈍いと思える。これもそれもあれも、こんな同じでいいのかという感じだ。イギリスは動物愛護の精神というと世界でも有名だし、生活に森の動物が近くにいることが多いので、一般人のレベルでかなり詳しい人が多い気がする。 ◆ これはあまり「なるほど」と思えない。下線部あたりに疑問が残る。とくに「翻訳を監修した人の中に生物学に詳しい人がいなかった」という箇所がよく理解できない。この文章を読んで「なるほど」と思ったと思われるひとのコメントも引用すると、 ◇ "swan" を白鳥と訳した人は、"black swan" の存在知らなかったんでしょうね。"black swan" をそのまま、訳すと黒白鳥。"baseball" や "soccer" を野球や蹴球と訳したセンスが欲しかったですね。 ◆ これも「なるほど」と思えない。先の「翻訳を監修した人の中に生物学に詳しい人がいなかった」と書くひとと「"swan" を白鳥と訳した人は、"black swan" の存在知らなかったんでしょうね」と書くひとにはともに、まるで日本語のすべてが英語の翻訳から成り立っているかのような思い込みがあるように思える。「baseball」や「soccer」など日本にもともとなかったものなら、新たに対応する日本語が必要になり、そのさいには翻訳者のセンスが問われるということもあるだろうが、「白鳥」は、なにも「swan」の訳語として作り出されたコトバではないので、翻訳者のセンスなど関与のしようがない。英語で「swan」と呼ばれる鳥は、日本に古来から飛来してきていて、日本語ではむかしから「白鳥」と言った。『日葡辞書』(1603)にも出ている(さらに古くは「くぐい(鵠)」と言った)。 ◆ 慶応大学の磯野直秀先生によると、室町時代から江戸時代前期に書かれた『お湯殿の上の日記』という資料において、「くぐい」から「はくちょう」へのコトバの移り変わりが見られるという。 ◇ 〔磯野直秀「博物誌資料としての『お湯殿の上の日記』」(The Hiyoshi review of natural science (40), 33-49, 2006)〕 なお,ハクチョウは古くから「くぐい」(鵠)と呼ばれており,この日記でも最初は一様に「くくい(ゐ)」と記されているが,永禄11年(1568)に初めて「はくてう」の名が登場し,徐々に後者の呼び名が増え,天正15年(1587)頃には「くくい」の表記がほぼ消え去る。もっとも,『看聞御記』では永享7年(1435)頃から「白鳥」の呼び方が珍しくない。 ◆ 先の引用に「"black swan" をそのまま、訳すと黒白鳥」という箇所があって、これを書いたひとは、それだから「swan」を「白鳥」と訳すのはおかしいと主張しているように読める。たしかに「黒い白鳥」という言い方は変だといえば変だが、これは英語の「black swan」の場合でも、ほとんど同じではないかという気がする。「swan」というコトバ自体に「白」を示す要素はなくても、「swan」といえば「白い鳥」をイメージするのがふつうだろう。日本語で「白いカラス」は変なのか変ではないのか? ちなみに、「black swan」は日本語では「黒白鳥」ではなく「コクチョウ(黒鳥)」と呼ばれているので、とくに問題はないだろう。 |
◇ 〔AFPBB News〕 【6月28日 AFP】東京都武蔵野市の「井の頭自然文化園(Inokashira Park Zoo)」は28日、台風で飼育施設が破損し逃げ出したリス30匹について、期待を上回る38匹を捕獲したことを明らかにした。 ◆ 原文はコチラ↓。 ◇ TOKYO, June 28, 2012 (AFP) — Japanese zookeepers who lost 30 squirrels after a typhoon damaged their enclosure said Thursday their recovery efforts had exceeded expectations — with 38 animals back in captivity. ◆ まだまだ増えそうな様子だ。脱走したリスにはマイクロチップが埋め込んであるらしいから、無辜のリスは無事に釈放されるのだろう(か?)。 |
◆ 『田宮模型の仕事』を読んでいると、こんな文章。 ◇ さて、いちばんの問題は金型屋です。木製模型を作っていたわが社にとっては、まったく付き合いのない分野でした。どこで金型を作っているのかを、調べることからはじめました。これまた付き合いのなかったプラスチックの材料屋さんに飛びこみ、業界のようすを訊(き)き、その人のコネで東京の金型工場を訪ねることにしました。工場といっても、いわゆる町工場(まちこうば)です。床は土間で、機械が置いてあるところだけコンクリートで固めていました。 ◆ 町工場に金型屋。さいきん読んだもう一冊にも、町工場に金型屋。 ◇ うちは小さな町工場だった。幼い私の遊び場は工場(こうば)だった。 ◆ 2冊の本から長々と引用したが、金型屋はさておいて、とりあえずは、以下の各1行だけでもよかった。 1) 工場といっても、いわゆる町工場(まちこうば)です。 ◆ それぞれ1箇所、原文にルビ(縦書きで漢字の右側に添えるふりがなのこと。引用文ではカッコで示した)がふってあるのが気になった。では、その前のルビのふってない「工場」「町工場」はなんと読めばいいのか? 1の「工場」は「こうじょう」と読むのだろう。2の「町工場」は「まちこうば」だろうと思うが、そうすると、どうしてこちらにはルビがないのか? 理由はわからないでもない。ルビをふったひと(いったいだれ?)が、「町工場」は「まちこうば」と読むのが一般的だが、「工場」は「こうじょう」と読むひとも多いだろうから、この場合は「こうじょう」ではなくて、「こうば」と読んでほしいと考え、わざわざルビをふったのだろう。 ◆ 出版業界のならわしに詳しくないので、よくわからないけれども、なんとなく、こうしたルビは原作者ではなくて、校正者が(読者の便宜をはかるために)ふっているような感じがする。こうしたルビには、校正者が原作者に「これはこの読み方でいいんですよね? だとすれば、この場合は、べつな読み方をする読者もいると考えられるので、念のため、ルビをふっておきますがいいですか?」といったやりとりの跡が、なんとなく(気のせいかもしれないが)感じられて、読んでいると(ちょっとだけ)違和感がすることがある。 ◆ この箇所にルビがなかった場合はどうなるだろう? まず確実に言えるのは、ルビがなければ、こんな記事を書いてはいないうことで、「工場」の読みが「こうじょう」か「こうば」のどちかなのかと考えもしないで、読み飛ばしていたことだろう。黙読の場合は、そのようなことが可能で、いまあらためて、音読ではない「黙読」の不思議さに思いいたったというわけなのだった。 ◆ 「牧場」は「ぼくじょう」あるいは「まきば」? 「市場」は「いちば」あるいは「しじょう」? 黙読の場合に、読者はいちいちその解答を要求されはしないけれども、いったん考え始めると、これはそれぞれなかなか難しい問題だろうと思う(ので、とりあえず、いちいち考えない)。 |
◆ ワタシは仕事がら日本中の都市を訪れるが、先月、静岡市駿河区小鹿を訪れたときに、赤と青の四角の地に白く抜かれた二つの星が並んだマークを目にした。これはもちろんプラモデルのタミヤのロゴだ。帰ってから調べてみると、ワタシが見たのはタミヤの「第二物流センター」だったようだ。タミヤは本社も工場も静岡市駿河区にある。ちなみに、小鹿は「こじか」ではなく「おしか」と読むらしい(参考:《田宮模型歴史研究室:住所の変更》)。 ◆ 出会いというのは奇妙なもので(と書いてしまい、消すのも面倒なのでそのままにしておくが、なにもたいしたハナシではない)、静岡市駿河区小鹿にあるタミヤの第二物流センターの二つ星のロゴを見た数日後、ブックオフで『田宮模型の仕事』という文庫本を目にしたので、買って(105円)帰って読んだ。読んでから、すでに読んでいたことに気がついた(以前に同じくブックオフで同じく105円で買っていたのだった)。とはいえ、気がついたのは、読んだ記憶があるということだけで、内容はきれいさっぱり忘れていたのだが。この本の解説に、 ◇ 私は仕事がら世界中の都市を訪れるが、その世界の街で、あの星がふたつ並んだマークを眼にする。赤と青の四角の地に白く抜かれた二つの星。そのマークを見ると、その看板が掛けられた店が何を売っている店なのか一瞬にしてわかる。考えてみると、これはすごいことである。例えば、コカーコーラの看板も世界中で見掛ける。しかし、そこはコークを売っているキオスクかもしれないし、レストランかもしれない。看板はその店が何の店なのかまでは表しはしない。しかし、タミヤの星のマークが見えたら、そこはホビーショップ以外の何ものでもないのである。この星のマークは、もはやタミヤ一社のロゴでなく、プラモデルを含むホビー業界そのもののシンボルなのだ。知らない街でホビーショップをさがすときは、とにかくあの二つの星をさがせばよいのである。世界広しといえども、一社のロゴマークが業界そのもののシンボルになる、そんな会社はタミヤ以外ないのではなかろうか。 ◆ と書いてあって、たしかに、考えてみると、これはすごいことである。 ◆ 『田宮模型の仕事』は、講談社インターナショナルから英訳(Master Modeler: Creating the TamiyaStyle)も出版されているようで、その案内文には、こうあった。 ◇ The blue and red star logo of Tamiya is now recognized internationally as the mark of model kits of unrivalled quality and precision. ◆ 静岡といえば、お茶が有名だが、それに劣らず、「模型の町」でもあるらしい(その多くはタミヤによっているとおもわれるが)。 ◇ 〔静岡ホビースクエア〕 静岡の模型の歴史は戦前の木製模型時代から遡れば半世紀以上の歴史があります。今や静岡の模型の出荷額は全国シェアの大半を占めるに至り、その歴史の長さと圧倒的なシェアから、静岡は「模型の世界首都」として世界中の模型ファンが集まる街へと成長しています。静岡が誇る模型の魅力と優れた地場産業をより多くの人に伝えたい。より多くの人に静岡のホビーを楽しんでほしい。そんな願いを込めて、2011年、新たなホビーの情報発信基地「静岡ホビースクエア」が誕生しました。 ◆ 写真は模型のタミヤの近くにあった「おちゃのタミヤ」。一族だろうか? |