◆ 水上勉『停車場有情』の「篠ノ井線松本駅」から。昭和21年冬。 ◇ 雪の降る一日、所在のないまま外へ出て、駅のぐるりを歩いた。西の方へ町通りを歩いていると、神明町とよぶ遊郭があった。遊郭というよりも淫売宿といった名称が似合う。貧相なトタン屋根の平屋がひしめいていて、赤い顔をした娼妓たちが、股火して外を見ていた。 ◆ 「股火する」という表現を知らなかったので、辞書で調べると、「股火鉢」を経由して、「金玉火鉢」というコトバにたどり着いた。 |
◆ 岩手県大船渡市の市の鳥は、市のホームページの記載によると、ひらがなで「うみねこ」。ちなみに、市の花は「つばき」で、市の木は「まつ」。全部、ひらがな。制定時にどんな議論があったのかはしらない。市の鳥の「うみねこ」は、マンホールの蓋にもデザインされている。 ◆ 大船渡の銘菓に、食べたことはないが、「かもめの玉子」がある。 ◇ 〔はてなキーワード〕 岩手県のお菓子メーカー、さいとう製菓が販売しているお菓子。岩手土産として非常に美味だが、近年では全国のスーパーマーケットで販売されるため多くの人が知っている。全国的に類似品が多いお菓子の一つである。 ◇ 〔Wikipedia〕 岩手のお土産の定番であったが、コンビニで売られるなど全国展開した結果、県内の売り上げは激減。現在は県内限定での季節商品が販売されている。季節によって限定の味がある。 ◇ 〔さいとう製菓〕 大船渡の小さな菓子店だった「齊藤菓子店」が昭和二十七年に開発を始め、いまや東北を代表する銘菓に成長した「かもめの玉子」。 ◆ 《さいとう製菓:銘菓誕生物語~かもめの玉子誕生秘話~》によると、 ◇ 知恵をしぼり、そして思いついたのが、観光みやげとしてのお菓子でした。俊雄は三陸の美しい海をもつ観光地大船渡の魅力は何だろうかと思案しました。思い浮かんだのは、青い海原の上を颯爽(さっそう)と飛ぶカモメの姿でした。そしてすぐに、「鴎の玉子」「沖のかもめ」「五葉松」「うにの子」と、一挙に5つもの商品名を考えついたのです。俊雄はさっそく「鴎の玉子」(のち平成11年に「かもめの玉子」と改称)の商品化に取りかかりました。昭和26年のことです。 ◆ もし、このとき「俊雄」が思い浮かべたのが「うみねこの玉子」だったなら、どうなっていただろう? ◇ ちなみに、大船渡湾にはたくさんの「うみねこ」はいますが「かもめ」はほとんどいないそうですが、かもめはいなくても、三陸海岸らしさを表現するさいとう製菓の銘菓「かもめの玉子」の名前は「うみねこの玉子」よりも「かもめの玉子」がいいですね。 ◆ どうなんだろう、よくわからない。「全国的に類似品が多い」ということらしいから、おそらく「うみねこの玉子」もどこかにあるのだろう。 ◆ 「ねこのたまご」ならご存知の方も多いだろう。「ねこたま」こと、北海道釧路市・松竹屋製菓の「ねこのたまご」。 ◇ 〔All About〕 東京のとあるコンビニエンスストアで「ねこのたまご」という一風変わった商品が並んでいます。手にとってレジで精算を済ませ、中身を確認するとそれは大福のような生菓子。ひとくち口に運ぶと外のモチっとした食感の次にふんわりとしたレアチーズの甘みを抑えた上品な味が舌を楽しませてくれます。製造元である松竹屋製菓のサイトを訪れると「ねこのたまご」は今回購入したレアチーズだけでなく、十勝ワインや古川さんの馬鈴薯、苺みるくなど実に21種類。味もバラエティに富んでいます。そもそもなぜこのような商品に「ねこのたまご」という奇抜な名前をつけたのか? ◆ ワタシもそのネーミングの由来が知りたくて、松竹屋製菓のサイトを訪れると…… ◇ このプログラムではこの Web ページを表示できません ◆ どうやら、去年の7月に自己破産したらしい。 ◇ さて、ねこたまで有名な「㈲松竹屋製菓」は7月6日に自己破産しました。つまり「ねこたま」は食べられなくなりました。地元で全国的に有名な企業が倒産するのは非常に寂しいものです。潰れる前にもう一度食べたかったです(>_<) ◆ 「ねこのたまご」の由来は、 ◇ モデルになったのは猫の「パセリ」(女の子)。他界した「パセリ」が大好きなテニスボールを抱いている写真をみて、卵を抱いているように見え、ネーミングを思いつきました。「ねこのたまご」を親しみを込めて「ねこたま」と呼んでくださいね! ◆ ということであったらしいのだが。「ねこたま」も「パセリ」と同じ天国へ行ってしまった。 |
◆ 《Yahoo!知恵袋》にこんな質問。 ◇ 「かもめ」と「ウミネコ」の違いは何ですか? 松島を世界遺産にしようとの活動があるそうですが、松島の遊覧船に乗ると「ウミネコ」か「かもめ」が山ほど寄ってきます。 ◆ 「ウミネコ」と「かもめ」の違い? もしかして、「カタカナ」と「ひらがな」? これが小学校の理科のテストであったら、こう答えると何点もらえるか? やっぱり零点か? この質問者が「ウミネコ」と「かもめ」で「カタカナ」と「ひらがな」を使い分けている理由はなんだろう? おそらく本人に聞いてもわからないだろう。 ◆ 「かもめ」あるいは「ウミネコ」を市町村の「鳥」に定めている自治体も多い。そのひとつに熊本県天草市。市の鳥は「ひらがな」で「かもめ」。 ◇ 海岸などに生息する飛翔力の強い鳥で、体は白色、背・翼は青灰色。魚の水揚げをする港などで、よく見ることができます。海をイメージさせるため、海に囲まれた天草を象徴する鳥です。 ◆ 以下は、「市の鳥」を決定するにあたって、「平成20年11月4日(金)」に「天草市役所庁議室」で開催された「第5回市民憲章等審議会」の会議録の一部。 ◇ 【天草市の鳥「かもめ」の表示方法について】 ◆ ちなみに、天草「市の魚」は「鯛」と漢字表記になっていて、これが、 ◇ (委員)○「たい」は魚の王様であるため、格調の高さを感じさせる漢字表示が良い。 ◆ といった理由によるものであるのだとすれば、「かもめ」はヘソを曲げるかもしれない。あ、鳥にヘソはないと思うので、……、ううん、なんだろ、怒って「鯛」を食べちゃうかもしれない。「オレらだって、海鳥の王様みたいなもんだ。バカでかいアホウドリは阿呆だし。ぜひ漢字で「鴎」にしてほしい、いや、この「鴎」という字体は気に入らないので、ぜひ「鷗」にしてもらいたい。さもなきゃ、魚をぜんぶ食っちゃうぞ」と言ったかどうか。 ◆ もっと、ヘソを曲げているのは、ウミネコだろう。いや、猫にはヘソがあるはずだが見たことはない(見たことある?)。いやいや、海猫は猫ではなくて鳥なので、ヘソはない。「市の鳥が『かもめ』に決まったって? 『かもめ』といったって、いろいろいるわな。そんなかで一番めだっているのが、オレたちじゃないか。なんで市の鳥を『ウミネコ』にしないんだ。魚をぜんぶ食っちゃうぞ。ついでに、ほかの『かもめ』も食っちゃうぞ」と言ったかどうか。 ◆ 天草市に行ったことはないので、どんな「かもめ」がいるのかホントはしらない。でも、「ウミネコ」が多いんじゃないの? ああ、猫のヘソが見たい。 |
ゴメゴメと声高らかに歌う子も ◆ 2007年9月7日、利尻島の鴛泊フェリーターミナルの売店で売られていた「ごめちゃん」のぬいぐるみ。1500円。 ◇ 〔石狩市:市鳥《カモメ(ゴメ)》〕 カモメは、魚の群れを追って海上を優美な姿で群れ飛ぶ海鳥です。80キロメートルにも及ぶ美しい海岸線を持つ私たちのまちでは、一年中この白く輝きながら飛ぶ数種類のカモメの姿を目にすることができます。漁師達は、カモメ(類)のことを親しみを込めてゴメと呼びます。ニシン漁の盛んだった頃は、歌にあるように、ゴメが鳴き騒ぐ場所を目印にして網をかけたといわれています。 ◆ ゴメとは北海道の浜言葉でカモメのこと。そう書いても間違いではなさそうだが、カモメにもいろいろな種類がいるので、そこまで考え始めるとよくわからなくなる。 ◇ 「鴎が凄いね」と私が言うと、 ◆ なかにし礼はゴメをウミネコのことだと考えているようで、「石狩挽歌」の出だしの「海猫」も「ごめ」と歌われる。 ♪ 海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると ◆ ネット上で「ゴメ(ウミネコ)」と書かれた紀行文も多く目にしたが、ほとんどが「石狩挽歌」の影響によるものではないかと思う。 ◇ 〔アクティブレンジャー日記(北海道地区・賀勢朗子 )〕 稚内市周辺では夏の間では、ウミネコやオオセグロカモメが多く見られるのですが、冬期には主にオオセグロカモメ、ワシカモメ、シロカモメ、ミツユビカモメが見られるようになります。体の配色パターンが似通っていて識別しづらいからか、港周辺ではあまりに普通に見られるためか、一緒くたに「ゴメ」と呼ばれているカモメ類はちょっとかわいそうです。 ◆ ネット上で見たかぎりでは、ウミネコを含めたカモメの類はみな「一緒くたに」ゴメと呼ぶのが一般的であるような気がする。ゴメとはアイヌ語でカモメのことだと書いてあるサイトもあったが、アイヌ語ではなさそうだ。 ◇ カモメが訛って「カゴメ」、さらに縮めて「ゴメ」。 ◆ もっとも、 ◇ 和名は幼鳥の斑紋が籠の目(かごめ→カモメ)のように見える事が由来とされる。 ◆ という説もある。いずれにしても、カゴメ(カモメ)がゴメになったのだろう。 |
♪ はるかな はるかな見知らぬ国へ ◆ 殺風景な部屋の壁に世界地図でも貼ってみようか。 ◇ そもそも島は地図に描きやすいし、その意欲を強く掻き立てるものだろう。私の個人史を振り返っても、奥尻島、知夫里島、真鍋島などで、気が付いたら地図づくりに励んでいた。もっとも、島では、ほかに何もすることがなかったからだが……。 ◆ 旅行の嫌いだった塚本邦雄は自室で空想の島の地図を描き、旅好きな木下直之は島に遊んで現地でその島の地図を描いた。ううん、ワタシの「個人史」に、島の地図を描いたというページは、残念ながら、ないなあ。ときに、おもしろいなと思う島の形にも出会うけれど、思うだけなので、すぐに忘れてしまう。ところで、奥尻島が北海道にあるのは知っているけど、知夫里島、それから真鍋島というのは、いったいどこにあるのだろう。 |
◆ 「芋は哀し」で引用した塚本邦雄の文章を、さらにもう一度引用すると、 ◇ 平凡なシルーエットは大嫌いだ。たとえば世界地図を展げるなら、ボルネオ、スマトラ、ジャワ、マダガスカル等、芋を転がしたような単純で鈍重な形象には全く興味を持たず、鼠に噛まれる窮猫の形のセレベス、毒を吐く蜥蜴の形のパプア、毀れたギヤマンの瓶と甕をばら撒いたかのフィリッピン群島各島、日本でなら乾鱏の北海道など面白いものに属し、自分の地図にも大いに採り入れた。〔原文は旧字旧仮名〕 ◆ ここに挙げられた島の名前は、北海道をのぞいてワタシにはなじみがなく、その形をはっきりとイメージすることができないものばかりだけれど、「鼠に噛まれる窮猫の形」とか「毒を吐く蜥蜴の形」と書いてあるのを読むと、どうにもその形を確かめたくなる。こんなことをしていると、時間がいくらあっても足りなくなって、図書館の返却期限に遅れてしまう。 ◆ とりあえず、セレベス島(現在はスラウェシ島)だけ、ちょっと。「鼠に噛まれる窮猫の形」か。ううん、この見立てはちょっと上級者向けのようだ。どこにネコがいてネズミがいるのか、よくわからない。北部の「ー」はシッポだろうけど、これはネズミのものなのか、ネコのものなのか? こんなに長いシッポはやはりネズミのものだろうか。だとすると、ネコが3匹いることになるのか? いや、3匹のネズミが1匹のネコに噛みついているようにもみえる。それとも、まったく別な見立てだろうか? ◆ 見立ての初心者は、この島の形を「K」に例える。これならわかりやすい。 ◇ インドネシア中部に位置するK字形の島。 ◆ また、シバ神が手にする「三叉戟」(trident)にも例えられる。これは中級だろうか。フランス語版の Wikipédia によると、 ◇ Ce nom est généralement interprété comme signifiant "trident de fer" (sula, du sanscrit trisula, "trident", l'un des attributs du dieu Shiva, et wesi ou besi, "fer"), à cause de la forme caractéristique de l'île, sorte de "K" dont la branche supérieure s'incurve vers l'est. ◆ この三叉戟(さんさげき)というのも、調べるとおもしろそうだが、ハナシを元に戻すと、いや、もう戻りそうにないが、今度は、セレベスの形がプジョーのライオンに見えてきた。このライオンのロゴデザインも、時代とともにさまざまに形を変えてきて、今年からまた新しいものになったようだが、これは島のディテールを連想させるにはあまりに直線的すぎるので、ひとつ前の「青ライオン」の画像を載せる。左右を反転すれば少しはセレベスに似るだろう。ろくろ首のライオン。そういえば、ライオンもネコの仲間だったのではないか。 ◆ セレベス、セレベスと書いてきたが、現在はスラウェシと書くのが「政治的に正しい」行為である。とはいえ、スラウェシという名をいままで知らなかったのだから仕方がない。いま日本でセレベスといえば、芋のことだろうか? ◇ 〔野菜図鑑〕 セレベス(Celebes)は、サトイモ(里芋)の仲間のサトイモ目サトイモ科サトイモ属(コロカシア属)の非耐寒性イモ類です。インドネシアのセレベス島(現スラウェシ島)から伝来したサトイモの一種で、千葉が主要な産地となっており早生栽培されます。 ◆ セレベス芋! ああ、今度は島の形が、芋に見えてきた。親芋に小芋が4つ! |
◆ 北海道の地図にカスベ(ガンギエイ)の姿を重ねながら、知床半島と根室半島の部分が、同じエイの仲間でもイトマキエイの頭部に見えてきたので、これも重ねてみた。どうだろう? 同じことを考えたひともいる。 ◇ 〔珍獣の食卓〕 カスベといえば、何かの本で北海道を「カスベの形をした土地」だと表現しているのを見たことがあります。前々から、北海道は生き物っぽい形をしていると思っていたのでやっぱりねーと感心しまくり。函館があるあたりが尾ヒレで積丹と室蘭のあたりが尻ビレ。ガンギエイにはないけど、イトマキエイだと頭に小さなヒレがあって角みたいに突き出してるから、これが羅臼と根室のあたりでしょ。もうピッタリ、エイの形そっくり。 ◆ イトマキエイの画像は長崎大学附属図書館が電子化した《グラバー図譜》から。萩原魚仙画。腹面からの図もある。 ◇ 〔グラバー図譜〕 グラバー図譜は通称で、正式な名称は「Fishes of Southern and Western Japan 日本西部及び南部魚類図譜」と言います。これらの図譜は、明治末から昭和初期の約25年間の間に、倉場富三郎(Thomas Albert Glover)により編纂されたもので、中村三郎などの手による主として海産の魚介類約800図、全32集から構成されています。 ◆ グラバー邸で有名なトーマス・ブレーク・グラバー(Thomas Blake Glover)の息子が、倉場富三郎。母親は日本人。イトマキエイ(Mobula japanica)に戻って、知床半島と根室半島のふたつの突起は、耳ではなくてヒレで、頭鰭(とうき・あたまびれ)という。 ◇ 頭部前端の左右にコウモリの耳のような形のひれ(頭鰭(とうき))があり,これが糸巻を連想させることに由来した名称。胸びれを広げたときの形から英名は devil fish または devil ray という。南日本の沿岸や沖合に生息し,南はハワイまで分布する。頭鰭をもつこと以外に,尾部がむち状でたいへんに長く,体板の3倍以上あるのが特徴。尾部には毒針があるが小さい。体板長2.5mに達する。〔中略〕 イトマキエイは食用とされず,せいぜい肥料に利用されるくらいである。(谷内透) ◇ 〔グラバー図譜〕 長崎魚市には東シナ海で操業する大型巻網でアジ、サバ類にまじってとれたものがときどき入荷し、クロエイ、バンゾエなどの方言で呼ばれている。肉は食用になるが不味で、かまぼこ材料として用いられている。 ◆ 不味いのか。でも、知らずにかまぼことして食べているかも。 ◆ 大リーグに、タンパベイ・デビルレイズ(Tampa Bay Devil Rays)という弱小球団があった。 ◇ 球団創設は1998年。アリゾナ・ダイヤモンドバックスと共に、球団拡張(エクスパンション)の一環として「タンパベイ・デビルレイズ」として誕生した。この「デビルレイズ」という愛称は、フロリダ湾に多く棲息するイトマキエイに由来する。〔中略〕 デビルレイズ時代の10年間の通算成績は645勝972敗(勝率.399)で、2004年の地区4位以外は球団創設からすべてのシーズンで地区最下位だった。勝ち越したシーズンすら一度もなく、シーズン70勝に達したのも2004年のみだった(同時期に創設されたダイヤモンドバックスは創設翌年に地区優勝を果たし、2001年にはワールドチャンピオンにも輝いている)。 ◆ 悪魔に呪われているせいだと思ったのかどうか、2008年、 ◇ 愛称から「Devil」の文字を取り、「タンパベイ・レイズ」と改称された。球団シンボルは、同じく「Ray」だが、これまで同様エイとともに光線も意味するものに変わった。 ◆ すると、同年、悪魔祓いが功を奏したのか、 ◇ 球団創設11年目で初の地区優勝・リーグ優勝を達成し、ワールドシリーズにまで進出。アメリカ全土に「レイズ旋風」を巻き起こす大躍進を遂げた。 ◆ なんともできすぎたハナシではある。イトマキエイといえば、近縁種に、ダイバーに人気の「マンタ」ことオニイトマキエイがいる。いずれにしても、イトマキエイは南方の魚だから、北海道にはあまり似合わないか。シッポもあまりに長くて細すぎる。 |