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◆ エッセイを読むのが好きだ(そう書きつけて、すぐに補足したくなる)。だが、エッセイストのではない。続けると、エッセイストのではないエッセイを読むのが好きだ。 ◆ エッセーを書くみなはみなエッセイストかもしれないが、また詩を書くひとはみな詩人かもしれないが、また小説を書くひとはみな小説家かもしれないが、また野球をするひとはみな野球選手かもしれないが、好きではないのは、エッセイを書くのを本業としている職業的エッセイストで、好きなのは、エッセイを書くのを本業としていない、つまりほかに本業をもっているひとが書いたエッセイ。エッセイを書くのを本業としていなくても、自らエッセイストと名乗るひとは、自称アーチストと同じで気持ちが悪い。「エセ(似非)イスト」。 ◆ 好きだ、と書き始めた文章が、途中で 「嫌い」 になってしまって、なにが書きたかったのかわからなくなる。 ◆ 最近はネットで、学生のレポートが読めたりもする。たとえば、札幌学院大学の地学のレポートが公開されていて、形式はレポートだが、内容はエッセイだ。小学校で書かされた作文に似ていないこともない。とてもおもしろい。 2003年度後期第1回レポート:「石ころ」の思い出 ◆ こんなのが、読むのが好きなエッセイ。 |
◆ ワタシの 「書く」 ものには他人の文章の引用が多い。多いどころか、ほとんど全部が引用のこともままある。こうなるともはや、ワタシが 「書いた」 とは言いづらいかもしれない。それでも、引用とは引き写すことなのだから、「書いている」 のは、やはりワタシである。 ◆ 引用が多いことの理由はいろいろあって、いちいち挙げるのも面倒だから、さしあたっては引用が好きだということにしておきたい。 ◆ ネット上の文章を引用するのに、手間はない。コピー&ペースト。これで終わり。楽ではあるが、これは少々つまらない。こんなことばかりしていると、どんどんアタマが退化していきそうで、こわい。だから、たまには出版物から一字一字引き写してみる。記憶できるだけの分量をアタマに入力して、それをキーボードで再現(出力)する。間違いがあれば、訂正する。それをしばらく繰り返すと、その作者の文章のリズム(句読点の打ち方その他)や漢字とカナとの使い分けといった点にも慣れて、間違いが少なくなる。入力&出力の作業がはかどるようになる。そのうち、この文章を書いているのはワタシだ、という気にもなる。意外に楽しい。以下、その練習。テキストは松浦寿輝のエッセイ。携帯電話のハナシ。 ◇ [……] この頃は音ではなく振動によって通話の着信を知らせることもできるようになっているんですよと教えられた。結構なことである。だが、人前で虚空に向かって話したり笑ったりお辞儀をしたりしている人の阿呆面を見物させられることの不快というものがあり、こればかりは、どんなデクノロジーをもってしても如何ともしようがあるまい。本来、こうした阿呆面をプライヴェート空間に隔離するための仕掛けとしてあったものが公衆電話ボックスだったのであり、現在起きているのは、こうした隔離による自他双方のための精神衛生よりも、いつでもどこでも他人と連絡が取れることの便利の方を優先するという合意が人々の間に形成されつつあるという出来事であるからだ。 ◇ 人前で、しかもその自分の回りの人々を傲然と無視しつつ、遠方の相手に向かって大声で話しかけているとき、たぶんあれら 「携帯電話の人々」 は、自分の 「社会的な重要性」 をひけらかしているのではあるまいか。それが意識的か無意識的かはともかくとして、あれは、必要に駆られてというより、半ば以上は演劇的パフォーマンスなのではないかとわたしは疑っている。きっと彼らは、恥ずかしいというよりはむしろ晴れがましいと思っているのだろう。 ◇ わたしは電話が嫌いである。そもそも他人と喋りたいと思うこと自体滅多になく、のみならずまた自分の 「忙しさ」 だの 「社会的な重要性」 だのを誇ろうという気持も皆無である。そうした偏屈な人間として言わせてもらうならば、携帯電話を四六時中持ち歩き、いつでもどこでもコミュニケーションに向かって開かれた態勢を保ちつづけている人々というのは、年がら年中世界に向かって発情しているようで何だか気持が悪い。 ◇ テクノロジーは人々のほんのささやかな欲望を、その当人すら気づいていないうちにめざとく発見し、先回りして満たしてくれようと待ち構えている。それは痒いところに手の届くように小まめに世話を焼いてくれる気の良い召使なのであり、その行き届いたケアに馴れていった挙句のはて、わたしたちは今や公衆電話のありかを捜すだけの時間すら、どうにももどかしくて待ちきれなくなってしまったのである。 ◇ 喋りたいという気持が起こったか起こらないかのうちに、たちどころに携帯電話を取り出して相手を呼び出せるということ。この 「安易さ」 ―― それは、手紙から電話へ、さらにポケベルやPHSへというコミュニケーション・ツールの進化によって増大する一方の 「安易さ」 だ ―― によって、コミュニケーションをめぐるわたしたちの欲望のボルテージはむしろ著しく下がってきてはいはしまいか。唐突な例を出すようだが、宮沢賢治のあの傑作童話 『銀河鉄道の夜』 の主人公の二人の少年ジョバンニとカムパネルラが、もし携帯電話を持っていていつでも会話ができたとしたらどうだろう。距離を隔てて二人が互いに相手に投げかけ合う激しい気持と、その気持のすれ違いの上に成立しているあの悲痛な物語は、その無類な美しさともども、いっさいが崩壊するほかないではないか。 ◆ 引き写し作業の難度は5段階評価で 「やや難しい」 といったところか。 |
◇ 「夏痩せも知らぬ女をにくみけり」(日野草城) ◆ この俳句に付された坪内稔典の解説を読んでみると、 ◇ 食欲旺盛で活発な女性をうとましく眺めている俳句である。高温多湿の日本の夏には、食欲がおとろえて体重が減る。すなわち夏痩せをすることが普通のことだった。だから、夏痩せを知らぬ女性などはその無神経ぶりがうとまれた。 ◆ 死んでいくコトバの反対側で、新しいコトバが生まれ出る。 ◇ 夏の暑さで食欲が落ちてやせてしまうのがいわゆる 「夏やせ」。ところが最近夏痩せよりも夏太りする人が増えているようです。 ◆ 夏太り。数年後には、気の早い 「歳時記」 がこの語を季語として収録していることだろう。 |
◆ 問題。以下は 『ジーニアス英和辞典』 から採った単語の定義である。もとの単語は何か? ◇ つけまわす、尾行する。 ◇ 裏切る、密告する。 ◇ ふらふらさまよう、尻を出して見せる。 ◇ ぶらぶらあてもなく歩く。 ◆ 解答。順に、dog、rat、moon、swan。犬、鼠、月、白鳥。もともとは名詞として記憶している単語も、辞書を詳しく読めば、動詞としての用法があって、それが結構おもしろかったりする。理解しやすいのもあれば、関連がまったく想像できないのもある。dog に「尾行する」 という意味があるのは、犬の特性だと考えればわりと腑に落ちるけれども、それとは関係なく、“A dog dogged a dog.” などという例文を考えてみるのは楽しい。犬が犬を犬した、とか。鼠が鼠を鼠した、とか。 ◆ (問題の例文は適当に思いついたものを挙げただけなので、もっとおもしろいものが見つかったら差し替えたい。) ◆ また、英語には 「~ing」 という形をもつ単語があって、ふつう動名詞と呼ばれている(と思う)。もとは動詞である。でも、もとのもとは名詞であることも多くて、これがより面白い。日本語になっているものでいうと、たとえば、ドッキング、バッティング、サイクリング、ダブルブッキング。船舶を建造あるいは修繕する場所である dock からどのような経緯で、docking という単語ができたのが、ワタシは知らない。batting も 「バットすること」 と直訳してみれば、なんとなくおかしい。で、しばらく前から気になっているのが、これ・・・。 ◆ 「時間すること」 とは、いったいなんだろう。あるいは 「TIME すること」 とは。TIME に ING をつけ加えると、TIMING。タイミング。タイミングという日本語が time に ing をつけたものだと知ったのは、それほど古いことではない。ワタシはいつもタイミングが悪いから、時機に乗り遅れるから、そんなこともあって、タイミングの語源をさかのぼって、TIME の、「時間」 の意味を知ろうと躍起になりもする。そんなことだから、タイミングを逃してしまいのだとは承知のうえで。 |
◆ 德國(德国)で世界盃(世界杯)が始まった。参加国を中国語で表記すると、以下の通り。順に、繁体字(カッコ内は簡体字)日本語。 ◇ 歐洲區(欧洲区): 德國(德国)ドイツ、烏克蘭(乌克兰)ウクライナ、荷蘭(荷兰)オランダ、葡萄牙(葡萄牙)ポルトガル、意大利(意大利)イタリア、波蘭(波兰)ポーランド、英格蘭(英格兰)イングランド、克羅埃西亞(克罗地亚)クロアチア、法國(法国)フランス、瑞典(瑞典)スウェーデン、塞黑(塞黑)セルビア・モンテネグロ、瑞士(瑞士)スイス、捷克(捷克)チェコ、西班牙(西班牙)スペイン ◆ セルビア・モンテネグロ(Serbia and Montenegro)の 「塞黑」 は略称。「塞」 はセルビアのセ、「黑」 はモンテネグロの 「グロ」 ・・・、ではなくて(だとおもしろいんだけど)、モンテネグロを直訳した 「黒い山」 の 「黑」。塞爾維亞與蒙特內哥羅(塞尔维亚和黑山)。 ◆ トリニダード・トバゴ(Trinidad and Tobago)の 「特多」 も同じく略称。「特」 はトリニダードの 「ト」、「多」 はトバゴの 「ト」。千里達及托巴哥(特立尼达和多巴哥)。 ◆ ガーナは加納さんか。 ◆ コートジボワールの 「象牙海岸」 も直訳。 |