MEMORANDUM

  謝辞

◆ たまたまネット上で見つけた文章を読んで、不意に、思わずほろりとしてしまった、その著者であるあなたに心からの感謝を。

◆ その理由がワタシにもよくわからないのだが、ネットであれこれ検索していたら、フランスのとある大学の博士論文に出くわして、ぺらぺらとPDFのページをめくっていたら(めくるもなにも最初のページにあるのだが)、論文にはつきものの「謝辞(Acknowledgements)」があって、それを何の気なしに読み始めてしばらくしたら、涙が出てきた。疲れのせいだろうか。

◇  My special thanks go to my colleagues in the laboratory. It was a pleasure sharing all these years with you. In particular, I will never forget Ferdinand’s and Julien’s advices and french grammatical lessons as well as Patrice’s good humor and endless jokes.
 My beloved family for their love and support. Mom, Dad and sister Laura: thank you for always believing in me. I owe you a lot.
 My two main supporters during this long, arduous but amazing journey: Juan and Josep. Your love and understanding encouraged me to keep going. Your company and patience during the most difficult moments kept me sane.
 Last but not least, to my dear friends: Paula, Alex, Javi and Gaby. Thank you for your friendship and support. These years in Toulouse would not have been such a wonderful experience without you.

ethesis.inp-toulouse.fr/archive/00000850/01/spangenberg.pdf

◆ 読みなおしても、やっぱりほろりとする。簡潔な、これ以上は簡潔にしようがないほど簡潔な文章のせいだろうか? たえとば、「Patrice の気のきいたユーモアとたえまないジョーク」。また、たとえば、論文執筆を「この長くて険しい、けれどステキな旅」(amzing がうまく訳せない)にたとえたところ。

◆ この論文の著者は、名字はドイツ系で、名は Mariana。国籍はわからないが、Juan と Josep という名前と考えあわせると、スペイン語圏だろうか?

◆ Juan and Josep も簡潔すぎて、どういう関係なのかはよくわからないが、こどもだろうか? 家族には、「Mom, Dad and sister Laura」とあって、夫が出てこないから、シングルマザーだろうか? と、どうでもいいことまで想像してしまうが、おそらく、この謝辞のなかでいちばんほろりとしたのは、この Juan と Josep にたいするつぎのくだりで、

◇ Your company and patience during the most difficult moments kept me sane.

◆ これも簡潔すぎて訳すのが難しいが、「あなたたちが、文句ひとつ言わずに、いっしょにいてくれたおかげで、このもっとも困難な期間を、わたしはなんとか乗り越えることができたのでした」。直訳っぽくすれば「わたしは正気を保てたのでした」。じっさいのところ、論文を書くというのは、気も狂わんばかりの精神の集中と努力を長きにわたって必要とする作業なのだろう。

◆ さいごに、「Last but not least, to my dear friends: Paula, Alex, Javi and Gaby」というくだりがあって、この「last but not least」を(ネット)辞書で引くと、

◇ 最後に述べるが決して軽んずべきでない(もの[こと]として).
▼列挙のうちもっとも重要なものを示すときの陳腐な決まり文句

小学館「プログレッシブ英和中辞典」

◆ いやはや、「陳腐な決まり文句」とは。いや、これは辞書を引かなきゃよかったな。というより引く辞書を間違えたか。(この「陳腐な決まり文句」という言い方にしたって、おそらくは、英語の辞書かなんかに、cliche とでも書いてあって、それを「陳腐な決まり文句」という、それこそ「陳腐な」決まり文句で訳しただけのことだろう。)

◇ 最後に述べるが決して軽んずべきでない(もの[こと]であるが), 大事なことをひとつ言い残したが 《★Shakespeare 「ジュリアスシーザー」から》.
研究社「新英和中辞典」

◆ シェークスピアだったか。『リア王』にも、出てくるようだ。

◆ このホームページも、じっさいのところ、いろいろなひとに支えられてできている。いつか閉じる日がきたら、あらためて謝辞を書きたいと思う。さしあたって、だれにあてるともなく、陳腐な決まり文句で、このページを閉じる。ありがとう。

◆ ついさっき、たまたま、こんなニュースを目にした。ニュースといっても、半年近くも前のニュースだ。ネット上での情報は、日付を確認してからそれを読むわけではないから、どうも時系列が(というよりワタシのアタマが)混乱する。

〔MSN産経ニュース(2011.4.21 18:40)〕  東日本大震災が発生した翌日の3月12日から標準時刻の送信を停止していた「おおたかどや山標準電波送信所」が4月21日午後1時54分、約40日ぶりに送信を再開した。同送信所は西日本をカバーする佐賀・福岡県境の「はがね山標準電波送信所」と並び、東日本一帯をカバーしているが、送信停止以来、北関東以北では電波時計で正確な時刻を調整できない利用者から苦情が相次いでいた。
 東京電力福島第一原子力発電所で12日に発生した水素爆発後、政府が原発から20キロ圏内の避難を指示したため17キロの地点にある送信所の職員が退避。有人運用設備のため、同日午後8時から送信を止めていた。
 送信所を運営する情報通信研究機構(NICT)と通信事業者などの作業員10人が21日、防護服を装着して、遠隔操作による送信信号停止装置やバックアップ用衛星回線装置を設置。これにより無人稼働が可能になり、送信が再開された。
 送信所の電波で時刻を調整しているのは一般の人の腕時計や目覚まし時計など。国内出荷量のうち置き時計の6割、腕時計の4割程度が電波時計とみられており、NICTや時計メーカーには問い合わせや苦情が多く寄せられていた。

sankei.jp.msn.com/economy/news/110421/biz11042118410038-n1.htm

◆ 腕時計も目覚まし時計も使わないので、このニュースに関心をもつ必然性はまったくなかったのだが、それでも記事を最後まで読んでしまったのは、ひとえに「おおたかどや山」(ついでに「はがね山」)という地名が気になって、どこかにその漢字表記が載っていないかと期待したからだった。

◆ 残念ながら、最後まで読んでも回答は得られなかったので、またべつな記事を探すと、

〔ITpro(2011/03/13 斉藤栄太郎)〕  情報通信研究機構(NICT)は2011年3月12日、福島県にある日本の標準時刻を伝えるための施設「おおたかどや山標準電波送信所」において、電波の送出を停止したことを明らかにした。福島原発に伴う避難指示に従い、3月12日19時46分に停波を実施したという。13日11時45分現在、復旧の見込みは「未定」となっている。同送信所は、福島県田村市と同双葉郡川内村境界付近の大鷹鳥谷山の山頂付近にある。
 日本標準時の電波を送出する施設は2つあり、おおたかどや山標準電波送信所はその一つ。40kHzの送信周波数を使っている。もう一つの送信所は、佐賀県佐賀市富士町と福岡県糸島市境界の羽金山山頂付近にある「はがね山標準電波送信所」で、こちらは60kHzの周波数を使っている。

itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110313/358261/

◆ とあって、ようやく満足する。おお、あった、あった。「大鷹鳥谷山」(ついでに「羽金山」)だったか。

◆ ついでながら、「福島県田村市と同双葉郡川内村」と「佐賀県佐賀市富士町と福岡県糸島市」という自治体名もみな知ららなかったので、調べてみていい勉強になった。いや、佐賀市だけは知っていたが、この微妙な書き方から、もしかすると、佐賀市富士町は「さがいちふじちょう」であったりはしないか、と思いもして、これも調べてみると、2005年、合併して佐賀市になる以前は、佐賀郡富士町だった。地元の意識としては、「郡」が「市」に一文字変わっただけ、という感覚ではないかと、想像したりもした。

◆ ハナシを「大鷹鳥谷山」にもどして、こりゃ、漢字で書かれても読めないなあ。といって、この記事を書いた記者は、読者が読めないことを危惧して、親切心で、「大鷹鳥谷山」を「おおたかどや山」(ついでに「羽金山」を「はがね山」)とひらがなで書いたわけではない。もともとの施設名がひらがななので、そのままそう書いただけだ。そうすると、こんどは逆に、最初のMSN産経ニュースの記事は、親切どころかはなはだ不親切であるように思えてくる。それに対して、あとのITproの斉藤栄太郎さんが書いたものは、ワタシにとってはとても親切な記事だった。

◆ そもそも、「おおたかどや山標準電波送信所」(ついでに「はがね山標準電波送信所」)と名づけた情報通信研究機構(NICT)は、親切なのか、不親切なのか。

◆ では、もともとの施設名が漢字で「大鷹鳥谷山標準電波送信所」(ついでに「羽金山標準電波送信所」)だった場合には、どうなるか。おそらくどの記者も「大鷹鳥谷(おおたかどや)山標準電波送信所」(あるいは「大鷹鳥谷山(おおたかどややま)標準電波送信所」か)というふうに漢字の読みをひらがなで添えるのでないか(ついでに「羽金山標準電波送信所」の場合は、ひらがなを添えるまでもないと判断して、省略する記者も多いだろう)。

◆ 1985年の「御巣鷹山」は、どうだったろうか。

◆ ところで、「大鷹鳥谷山」は、山名としては「山」がつかないのが正式なようだ。

♪ エンジン・フードで卵が焼けるほど
  あの娘はとばして浜辺についた
  ゆうべ天気図にたくさん線ひいて
  台風の位置を確めたのさ

  松任谷由実「稲妻の少女」(作詞・作曲:松任谷由実,1979)

◆ 先に引用したユーミンの「稲妻の少女」(じつはタイトルをいましがた知ったばかりだ)の歌詞について、とんでもない思い違いをしていたことに気がついたので、そのハナシ。歌われる「あの娘」はサーファーで、台風の接近にともなうビッグウェイブを逃してはなるものかと、車をとばして浜辺に駆けつける。「エンジン・フードで卵が焼けるほど」という部分がなんとも秀逸だ。

◆ それから、「あの娘」は、自慢の「Lightning Bolt」の稲妻マークのはいったボードを自在に操ってサーフィンを楽しむことになるのだが、以下サーフィン用語が頻出するので、じつのところ、よく理解していなかった。たとえば、

♪ 今日をのがしたらお目にかかれない
  逆巻くチューブに鳥肌がたつ

◆ の「チューブ」。ネット上でサーフィン用語集もいくつか見ることができるが、そのひとつ《サーフィン用語大辞典(namidas)》によれば、

◇ tube 波が巻いている状態。(歌のTUBEはサーファーではないそうだ)
www.namidas.info/namidas-ta.html

◆ と書いてあって、なるほど、「夏をのがしたらお目にかかれない」バンドとして有名な「TUBE」の由来は、これだったのか。あるいは、

♪ 今日をのがしたらお目にかかれない
  バレーのようなカット・バックに

◆ の「カット・バック」。《サーフィン用語百科事典》によれば、

◇ テイクオフを覚えて、ボトムターン~トップターンが出来るようになってきたらこの”カットバック”に挑戦したい!という流れになってくるでしょうか。”切替す”という意味合いを持つ言葉どおり、ライディングの途中に切替すことで波のパワーゾーンに戻る”鋭角のターン”をいいます。
www.nmtk.net/cutback.html

◆ なるほど。わかったようなわからないような。また、あるいは、

♪ コーラの空びん並べるみたいにさ
  あの娘は男をスラロームする

◆ の「スラローム」。《サーフィン基礎知識(波通)》によると、

すらろーむ【スラローム slalom】 カーブを入れながら、連発ターンをしまくること。
www.i92surf.com/basic.php?c=5-12

◆ なるほど、そうか「しまくる」のか。これだ、ワタシがカン違いしていたのは。30年もの長きにわたって、ワタシはこの「スラローム」を、どうしたわけだか、「スワローにする」だと思っていたのだった。

◆ 解説しよう、「スワローにする」とはなんなのか? 「スワロー」は英語の "swallow" で、「燕(つばめ)」のことだ。ツバメは、「スズメ目ツバメ科の鳥」であるのはもちろんだが、俗語として、

年上の女性にかわいがられる若い男。「若い―」
小学館『大辞泉』

◆ の意味もある。たぶん、この歌を聞いたころ、どこかで「若いツバメ」というコトバを聞きかじっていたのだろう。てっきり、歌の「あの娘」は「コーラの空びん並べるみたい」に次々と若い男を「ツバメ」に「しまくって」いたのかと思ってしまったのだった。「ツバメ」では露骨すぎて下品だから、英語にして「スワロー」にしたのかと。われながら、実にすばらしい解釈だった。ちなみに、「若いツバメ」というコトバの由来は平塚雷鳥(の5つ年下の奥村博史という愛人)にあるそうで、《Wikipedia》によれば、

◇ 「相手の女性よりも年下の恋人」をつばめと呼ぶのは、奥村がらいてうと別れることを決意した際の手紙の一節、「静かな水鳥たちが仲良く遊んでいるところへ一羽のツバメが飛んできて平和を乱してしまった。若いツバメは池の平和のために飛び去っていく」を、らいてうが『青鞜』上で発表し、一種の流行語になったことに由来する。
ja.wikipedia.org/wiki/平塚らいてう

◆ なるほど、いい勉強になった。

◆ 「稲妻の少女」はアルバム『OLIVE』に収録されているが、このなかには、そういえば、「ツバメのように」という曲もあった。これは飛び降り自殺した女性のことを歌ったもので、「若いツバメ」とはなんの関係もない。

♪ 誰かが言った あまり美人じゃないと
  ハンカチをかけられた白い顔を

  松任谷由実「ツバメのように」(作詞・作曲:松任谷由実,1979)

◆ 30年前、この箇所の「リアルさ」には衝撃を受けた。救急車のことを「哀しいリムジン」と表現するのもユーミンらしいセンス。

◆ せっかくの機会だから、『OLIVE』の他の曲の歌詞もざっと読んでみたところ、「スラローム」以外にもカン違いして箇所がいくつかあった。あと、「稲妻の少女」に戻って、ひとつだけ。

〔2ch〕 あとこのOLIVEの中に入ってる、稲妻の少女の歌詞でも一箇所おかしい所がある。それは、バレーのようなカットバックにってところが。これもバレエだと思うんだわ、あたしは。バレーだとバレーボールになっちゃうwww ここ絶対、バレエだとおもう。
yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/gaysaloon/1306828434

◆ 歌詞ひとつとってみても、ずいぶんむずかしくて、キリがない。

◆ 「It thunders. イータ サンダス それ かみなる」「It thunders. イータ サンダス それ かみなる」、ジョン万次郎の訳した英会話の教科書(『英米対話捷径』)のコトバを舌の上で転がしていたら、つられて転がり出てきたコトバがある。You're rollin' thunder, ah! この「ah!」の部分(歌詞カードには書かれていないが)をカラオケで楽しく真似るのが好きなひともたぶん多いだろう。なつかしいアリスの「冬の稲妻」だ、ah!(夏なのに)。

♪ You're Rollin' Thunder 突然すぎた
  You're Rollin' Thunder 別れの言葉

  アリス「冬の稲妻」(作詞:谷村新司,作曲:堀内孝雄,1977)

◆ この "rolling thunder" は、ゴロゴロと「転がる雷鳴」ではなくて、ゴロゴロと「轟(とどろ)く雷鳴」。もしかしたら、転がるゴロゴロも轟くゴロゴロも、もとはひとつのゴロゴロに由来するのかもしれないが、そのへんは調べてないのでなんともいえない。それはとのかく、Ah! いま気がついた。歌いだしの「あたなは稲妻のように」は、直訳すれば、"as if you were a lightning bolt" か。すくなくとも、"rolling thunder" ではない。稲妻は雷鳴ではない。なにもいまごろ気づくようなことではなかった、ah!。

◇ 英語で言うと稲妻は『lightning』で雷は『thunder』になるようです。ですから、正確に言えば冬の稲妻な訳ですから歌詞は『You're Rollin' Lightning』になるのでしょうか?何だか迫力がない歌になってしまいますね。
neoretro.blog96.fc2.com/blog-entry-451.html

◆ 稲妻はゴロゴロしないと思うが、ゴロゴロとまたべつな歌が転がってきた。ユーミンの軽快な曲、「稲妻の少女」。

Lightning Bolt♪ She's a lightning lightning Lightning Bolt.
  松任谷由実「稲妻の少女」(作詞・作曲:松任谷由実,1979)

◆ こんどはちゃんと夏の曲。"Lightning Bolt" は稲妻だけれども、これはサーフィンの歌だから、とうぜん、サーフボードのブランドの「Lightning Bolt」が意識されているわけで、

♪ 白いしぶきが雲ならば hum
  あの娘のボードは閃く稲妻

Lightning Bolt◆ と歌詞にもある(この「hum」を「冬の稲妻」の「ah!」と比較してみるのもおもしろいかも)。ワタシも「Lightning Bolt」のサーフボードをもって海水パンツをはいて、湘南は遠いので近くの琵琶湖で泳いだものだった。

◆ とあれこれ書きつつも、よくわかっていないのが、日本語の「雷」。これは音(雷鳴)と光(稲妻)を合わせたコトバという理解でいいのだろうか。

かみ‐なり【雷】 《「神鳴り」の意》  電気を帯びた雲と雲との間、あるいは雲と地表との間に起こる放電現象。電光が見え、雷鳴が聞こえる。一般に強い風と雨を伴う。いかずち。なるかみ。「―が鳴る」「―に打たれる」《 夏》「―に小屋は焼かれて瓜の花/蕪村」
小学館『大辞泉』

◆ それでいいようだ。《気象庁》の「予報用語集」によると、「雷」とは「雷電(雷鳴および電光)がある状態」で「電光のみは含まない」とあり、「用例」として、

◇雷が発生する。雷が鳴る。落雷。
www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kori.html

◆ が挙げられている。つまり、気象庁の天気予報では、「雷が(光をともなわずに)鳴る」ことはあっても、「雷が(音をともなわずに)光る」ことはない。一般的に考えても、雷の語源は「神鳴り」だから、どちらかというと、光よりは音のほうが重要な要素なのだろう。どうしてこんなことが気になるのかというと、英語のことを考えてしまったからで、日本語の「雷」を" thunder" と訳すと、これは音のことであって光は含まれない。だから、正確に訳そうとすると、"thunder and lightninng" ということになって、ちょっと面倒だなと思ったわけ。"thunder" と "lightninng" をひとつにしたコトバはないのかというと、あるにはあって、"thunderbolt" がそうかもしれない。

◇ thunder は「雷鳴」のみを意味し, 「稲光」lightning とは別. a thunderbolt は音と光の双方を伴う.
研究社『新和英中辞典』

◆ と、とりあえずはそういうことになるのかもしれないが、この先は面倒なので、まだいずれ。

◆ああ、なんてきれいな曇り空だろう。電車の窓から目にした光景に、思わずはっとする。そうして、今しがた読んでいたばかりの本のこんな一節を思い起こして、ちょっとがっかりする。

◇ 「曇る」という日本語の動詞がある。これに対する英語を考えてみたのだが,どうも適当な動詞はないようだ。強いていってみれば,be cloudy か become cloudy ではなかろうか。もっとも,「曇る」という動詞は,ふだんあまり使い道がないので,そんな動詞がなくても別に不自由ではないだろう。
久保田博南『科学のことば雑学事典 語源からさぐる英単語』(講談社ブルーバックス,p.48)

◆ 「あまり使い道がないので、なくても不自由ではない」だって? こういう言い方をされると、ついつい「曇る」という動詞の肩を持ちたくなる。「曇る」という動詞に肩があるのかどうかは知らない。知らないけれども、おまえなんかイラナイ、いなくても困らない、なんて言い方をされたら、だれだっていい気はしないものだ。だから、この本を外で読むのはもうやめよう。なぜって、「曇る」という動詞に読まれてまうといけないから。そう思って、いそいで本をかばんにしまう。ああ、でもすこし遅かったようだ。すでに「曇る」という動詞に読まれてしまったらしい。ほら、窓の外、みるみるうちに「曇る」という動詞の顔が悲しみで曇ってゆく。そうして、すっかり薄暗くなった空が、とつぜん雷る。

◇ 「雷る」という日本語の動詞はない。

◆ とだれかが言った。でも、あるんだよ。あのジョン万次郎が『英米対話捷径』という本のなかで、書いてる。

◇ It thunders. イータ サンダス それ かみなる
archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_c0733/bunko08_c0733_p0020.jpg

◆ かみなる。神鳴る。空で神さまが鳴いている。

◆ 英語はラクちんだ。thunder は「雷」という名詞。そうして、そのまま「雷る」という動詞。cloud は「雲」という名詞。そうして、そのまま「曇る」という動詞。「曇る」という動詞は英語にもちゃんとある。チェコ(The Czech Republic)の夏にも、「曇る」という動詞はある。

◇ All of sudden the sky clouds over, it gets dark and cools down, a breeze changes into a strong wind. Then there is a crash of thunder and a flash of lightning and heavy downpour. Sometimes it starts hailing. After the storm a rainbow may appear a sky. You can see pools of water and puddles everywhere.
hnipirdo2.ic.cz/aj10.pdf

◆ 英語はラクちんだ。rain は名詞。あるいは、動詞。It rains.

◇ 英語では「rain」という単語は動詞にもなる。これに対する日本語は「雨」だが、どうにも動詞にはならない。強いて「雨る」と言ってみても、こんなことばは日本語にはない。もっとも「雨る」という動詞がなくてもワタシはこまらない。なぜって、雨はきらいだから。

◆ 月曜日の朝、外は雨が降っている。はやく止まないかな。

◆ 7年前の PHOTODIARY の編集をしていた。2003年9月15日、この日は引越の仕事で甲府へ行った(ようだ)。仕事が早く終わり、そのあと温泉で汗を流し、ついでに4トントラックで昇仙峡見物。なんとも楽しい1日だった(ようだ)。

◆ 中央道下り釈迦堂パーキングエリアの所在地は、現在は山梨県笛吹市一宮町千米寺(せんべいじ)であるが、笛吹市ができたのは2004年10月12日で、当時は東八代郡一宮町千米寺だった。ちなみに、このカワイイ彫刻はなにかというと、周辺の釈迦堂遺跡から発掘された埴輪だか土偶だかを模したもの。

◆ 中央線上野原駅の所在地は、現在は山梨県上野原市新田であるが、上野原市が誕生したのは2005年2月13日のことで、2003年には北都留郡上野原町新田だった。

◆ というようないくぶん面倒な作業――といって、だれに強制されたわけでもないので、結局のところイヤではないのだろう――をしていると、ちょっと奇妙な感じがしてくる。夏休みもほとんど終わるころになってから始める宿題の絵日記のようなものだろうか。「明日から海に行きます。晴れるといいな」などと、夏の終わりに書くのはまったくしらじらしいことではあるが、その作業がつまらないかというと、かなり微妙なところがある。

◆ 1492年、コロンブスの船が近づいてくるのをアメリカ大陸から見ていたインディアンたちは、口々にこう叫んだそうだ、「ああ、ついに我々は発見された!」。

◆ コロンブスといえば、先だって刑事コロンボが死んだ。そういえば、スリランカの旧首都もコロンボだ。なぜだろう? コロンボは鳩。

「Luminance HDR」というフリーの画像処理ソフトを使ってみた。なかなかおもしろい。