MEMORANDUM

  曇る・雷る・雨る

◆ああ、なんてきれいな曇り空だろう。電車の窓から目にした光景に、思わずはっとする。そうして、今しがた読んでいたばかりの本のこんな一節を思い起こして、ちょっとがっかりする。

◇ 「曇る」という日本語の動詞がある。これに対する英語を考えてみたのだが,どうも適当な動詞はないようだ。強いていってみれば,be cloudy か become cloudy ではなかろうか。もっとも,「曇る」という動詞は,ふだんあまり使い道がないので,そんな動詞がなくても別に不自由ではないだろう。
久保田博南『科学のことば雑学事典 語源からさぐる英単語』(講談社ブルーバックス,p.48)

◆ 「あまり使い道がないので、なくても不自由ではない」だって? こういう言い方をされると、ついつい「曇る」という動詞の肩を持ちたくなる。「曇る」という動詞に肩があるのかどうかは知らない。知らないけれども、おまえなんかイラナイ、いなくても困らない、なんて言い方をされたら、だれだっていい気はしないものだ。だから、この本を外で読むのはもうやめよう。なぜって、「曇る」という動詞に読まれてまうといけないから。そう思って、いそいで本をかばんにしまう。ああ、でもすこし遅かったようだ。すでに「曇る」という動詞に読まれてしまったらしい。ほら、窓の外、みるみるうちに「曇る」という動詞の顔が悲しみで曇ってゆく。そうして、すっかり薄暗くなった空が、とつぜん雷る。

◇ 「雷る」という日本語の動詞はない。

◆ とだれかが言った。でも、あるんだよ。あのジョン万次郎が『英米対話捷径』という本のなかで、書いてる。

◇ It thunders. イータ サンダス それ かみなる
archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_c0733/bunko08_c0733_p0020.jpg

◆ かみなる。神鳴る。空で神さまが鳴いている。

◆ 英語はラクちんだ。thunder は「雷」という名詞。そうして、そのまま「雷る」という動詞。cloud は「雲」という名詞。そうして、そのまま「曇る」という動詞。「曇る」という動詞は英語にもちゃんとある。チェコ(The Czech Republic)の夏にも、「曇る」という動詞はある。

◇ All of sudden the sky clouds over, it gets dark and cools down, a breeze changes into a strong wind. Then there is a crash of thunder and a flash of lightning and heavy downpour. Sometimes it starts hailing. After the storm a rainbow may appear a sky. You can see pools of water and puddles everywhere.
hnipirdo2.ic.cz/aj10.pdf

◆ 英語はラクちんだ。rain は名詞。あるいは、動詞。It rains.

◇ 英語では「rain」という単語は動詞にもなる。これに対する日本語は「雨」だが、どうにも動詞にはならない。強いて「雨る」と言ってみても、こんなことばは日本語にはない。もっとも「雨る」という動詞がなくてもワタシはこまらない。なぜって、雨はきらいだから。

◆ 月曜日の朝、外は雨が降っている。はやく止まないかな。

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