◇ ただ、こういうことは、たまにある。私が特にこういう奇妙な偶然にめぐまれているというわけでもなく、誰にでもあることだろう。ふだんならば長い時間の軸の上にちりぢりばらばらに置かれていることごとが、たまたま集まってくる。いくらか長く生きていると、そういうことがときどき起こるように思う。
川上弘美『ゆっくりとさよならをとなえる』(新潮文庫,p.124)
◆ 「こういうこと」というのは、川上弘美がかつてわずかのあいだ住んでいた町(明石)の思い出を新聞のエッセーに書いたら、そのエッセーが新聞に掲載される2日前にその町の友人からたまたま手紙が届き、1日前にその町の別の友人からたまたま電話がかかってき、新聞の掲載から半月後に会おうと思った人がたまたまその町に転勤で引越してしまっていた、というような偶然の連鎖のことで、こういう「たまたま話」がワタシは大好きなので、他人の話ではあっても、なんとなく楽しい気分になる。
◆ そういえば、数日前、ワタシにもこんなことがあった。横浜の日ノ出町あたりを散歩していたら、「横浜愛犬高等美容学園」という看板がふと目に入った。「高等」の文字がなんとなく気になって、この高等というコトバの位置がなんとなく変かな、などと思い、ではどこに入れればいいのかとあれこれ考えて、「横浜高等愛犬美容学園」がいいかな、とも思ったけれど、それでは「頭のいい犬」のためのトリミングスクールの意味にもとれるから、やっぱり元の語順でいいのか、と思い直しもしたりして、でも結局は「高等」というコトバはそもそも不要じゃないか、などとくだらぬことを考え続けて、ふと通りの反対側に目をやると、マンションに「空ワンルーム」の文字。ワンルーム? とっさに犬用のマンションかと思ってしまった。おまけに、そのマンションの前には犬の散歩をしてる人もいたりして。いや、まあ、それだけのハナシなんだけど。そんなことであっても、なんとなく楽しい気分になった。