MEMORANDUM

◆ ポロンナルワの遺跡を巡っていたときに見かけた天然の有刺鉄線。のどかな遺跡の風景によく似合う 「立入禁止」。なんという植物の枝なのかはわからない。棘のある植物、バラと、それから・・・、ああ、サンショウぐらいしか思いつかないや。香港の高層ビルの建築現場で竹の足場が使われているを見たときも驚いたけれど、こちらはそれに比べるとほんの小さな驚きで・・・。

◆ 最近はカカシを見ることも少なくなったから、あるいはカカシを漢字で書く必要もなかったから、という言い訳をまず書いておいて、じつは、この写真の看板を見て、はじめてワタシは、カカシが漢字で、「案内子」 ではなく 「案山子」 と書かれることに思い当たった。 「案山子」 を何と読むかと聞かれれば、カカシと答えることはできた。けれども、カカシを漢字で書けと言われれば、「案内子」 と書いていたに違いない。なんとなくそう思い込んでいた。

かかし (名) 案山子 〔赫(カカ)シ、ノ義ニテ、威ス意カト云〕 竹、藁ナドニテ、人ノ形ヲ作リ、蓑笠ヲ着セ、弓矢ナド持タシメタルモノ、田畑ノ間ニ立テテ、鳥獣ヲ怖(オド)シ、其害ヲ防グ。ヤマダノソホヅ。
大槻文彦 『言海』(ちくま学芸文庫,p.314)

◆ 「赫(カカ)シ」とあるのは、あるいは 「嚇シ」 の誤植かしらん、と思いつつ、語源にかかわると、時間がかかりそうなので、それは後回しにして、最後にカカシを見たのはいつだったろうか、ということをぼんやりと考えていたら・・・

◆ 記憶はスリランカにたどり着いた。シーギリアからの帰り道。周りはいつ象が出てきてもおかしくないようなジャングル(実際に出るらしい)。こんなところで野生の象に出会ったりしたら、それは運がいいことだろうか、それとも悪いことだろうか、などと考えていると、道沿いの民家に、象ではなくて、象よけの人形があるのが目についた。ざっと5、6メートルぐらいの樹の上に、小さな 「家」 がこしらえてあって、その中に、等身大以上の大きな人形が服を着、後ろを向いて立っている。ああ象向きのカカシだな、と思った。なにしろ相手は象である。アフリカ象ほど大きくないとはいえ、スリランカ象も象には違いないから、日本のカカシみたいにただ地面に立っていては、気づきもせずに踏み潰してしまうだろう。上から見下せば、象も少しは警戒するかもしれない。でも、ホントに効果があるのかなあ?

◆ スリランカのあと、日本で二度ほどカカシを見た憶えがあるが、アタマのなかのコンピューターはいまだに検索中。

◆ 《asahi.com》 を見ていたら、「150台の都バスがスリランカに譲渡」 というニュースが。

◇ 津波で被害を受けたスリランカ支援のため、東京都から譲渡された中古バス約150台のうち60台が9日朝から、横浜市の大黒埠頭(ふとう)で貨物船に積み込まれた。同日中に積み終わり出港、今月下旬に同国コロンボへ到着する。 / バスは、東京の排ガス規制に適合しないため廃車予定になっていた。一方、スリランカでは津波被害で公営バス2000台が被災しており、「捨てるぐらいなら譲って」 と、都バスの第二の人生が実現した。
www.asahi.com/life/update/0809/002.html

◆ こんど行くときには、京都の市バスだけでなく、都バスにも会えるわけか。

◆ 関係ないけど、アルゼンチンのブエノスアイレスでは東京の地下鉄丸の内線の車輛と名古屋市営地下鉄の車輛が第二の人生を送っているとか。参考:《ブエノスアイレス地下鉄・物語》

◇ 昨年の夏には一家で二週間、タイへ旅行されている。眞子さま、佳子さまには初めての外国訪問で、巨大なナマズや水牛にカルチャーショックを受けられたようだ。
『週刊文春』7月1日号,p.32

◆ 巨大ナマズもやはりカルチャーだろうか? そんな疑問はあとにして、秋篠宮家はわりと外遊されてるようで、スリランカにもその足跡を残されていた。写真はデヒワラ動物園で見かけたプレートで、

MESUA NAGASARIUM / THIS TREE WAS PLANTED BY / HIS IMPERIAL HIGHNESS PRINCE AKISHINO / ON THE OCCASION OF THE VISIT OF / THE PRINCE AND PRINCESS / TO THE ZOOLOGICAL GARDENS / ON 8TH NEVEMBER 1992

◆ 1992年に当地を訪問された秋篠宮ご夫妻が MESUA NAGASARIUM という樹木を植樹されたと書いてある。NAGASARIUM ではなく NAGASSARIUM が正しいと思われる。。この木はシンハラ語で Na-mal。mal は木のことだから、ナーの木。スリランカの national tree だそうだ。

◇ The “Na Tree” botanically known as “Mesua Nagassarium” was adopted as the National Tree of Sri Lanka on 26 February 1986.
www.lankaemb-egypt.com/SriLanka/facts.htm

◆ 学名 Mesua nagassariumMesua ferrea のほうが通りがよいようで、英語では ironwood tree、日本語ではセイロンテツボク(セイロン鉄木)。

◇ The wood of Mesua ferrea is very heavy it is used for railroad ties and building needs. Its resin is slightly poisonous but many parts have medicinal properties.
www.desert-tropicals.com/Plants/Guttiferae/Mesua_ferrea.html

◆ とにかく役に立つ木なんだそうだ。

◆ 古都キャンディのペーラーデニヤ植物園を歩いていると、ひとりのフランス人がビデオを空に向けて回しているのに出くわした(いや、もしかしたら、通じないにもかかわらず、わざとフランス語を使っているひねくれたアメリカ人だったのかもしれないが、それは本人に聞いてみないとわからない)。なんで空なんか撮っているのか、とワタシも空を見上げてみると、黒い鳥たちが樹の上を旋回しているのが見えた。なんの鳥だろう、とさらに目を凝らすと、鳥ではなくコウモリだった。このコウモリが珍しい種類であったのか、あるいはこのフランス人にとってコウモリそのものが珍しいものであったのか、それはわからない。植物園に来てコウモリを撮るというのも妙なハナシだが、ワタシもつられて手にしたデジカメを空に向けてコウモリの写真を撮った。

◆ それにしてもコウモリがどうしてこんな昼間に飛んでいるのだろう。スリランカのコウモリは夜行性ではないのだろうか。そんな疑問が脳裏をかすめたとき、コウモリの飛んでいた樹木の下からひとりの男がやってきて、手を差し出した。「写真撮っただろ」。この瞬間、すべての疑問が氷解した。なるほど、この男が樹の幹を叩いて、寝ていたコウモリたちを追い立てていたのである。昼行性のコウモリなんているわけがない。寝床が揺れて騒々しいものだから、寝ていられなくなって、いやいや空に逃げ出しただけだったのである。というわけで、この男はたしかに仕事をしていたのだから、その報酬を要求するのは当然のことで、一枚しか写真を撮らなかったとはいえ、ワタシは(おそらくは高すぎる)写真代を支払うことになったのだった。

◆ コウモリはフランス語で chauve-souris。禿げたネズミの意。そういえば、あのフランス人に似ていなくもなかった。

◆ 今日は仕事が早く終わったので、川崎市市民ミュージアムで開催されている「日本の幻獣」展というのを観てきた。そのなかに、いつのものかはわからないが、「印度国 海漫竜」と題された図版があって、左端に「セイロン島ニ於テ生捕」との文字が読める。印度国セイロン島、か。

◆ スリランカには行ったけれど、よく考えてみると、スリランカのことはなにも知らない。たとえば、その歴史。もちろん、スリランカがかつてセイロンと呼ばれていたことは知っているけれど、インドの属国であった時期があったのかどうか、となるとよくわからない。在日スリランカ大使館のサイトによれば、

◇ スリランカは古代から、様々な名前で知られている。ギリシャ人は「タプロバネー」と、アラブ人は「セレンディブ」と呼んでいた。昔の植民地時代は、ポルトガル、オランダ、イギリスはそれぞれ、「セイラオ」、「ゼイラン」、「セイロン」と呼んでおり、おそらく「シンハラドゥウィーパ」に由来している。スリランカは古代の「輝く島」という土地固有の意味がある。
www.embassy-avenue.jp/srilanka/history.html

◆ ポルトガル、オランダ、イギリス。これが、16世紀以降、セイロン島を支配してきた国々の名前。

◇ Occupied by the Portuguese in the 16th century and the Dutch in the 17th century the island was ceded to the British in 1802. As Ceylon it became independent in 1948; its name was changed in 1972.
www.nationsonline.org/oneworld/sri_lanka.htm

◆ 1948年にイギリスから独立し、スリランカとその国名を変えたのは1972年のことである。

◇ インドの南にぽっかりと浮かぶ島・スリランカは北海道を一回り小さくしたほどの大きさで、1972年の新憲法公布とともに「セイロン」から現在の名前に改名されている。 / 世界地図を見てのカタチからして、「インド洋に落ちた一滴の涙」とか「インドから落ちたマンゴー」などと揶揄されるが、実際には語源通りの「光り輝く島」、「歴史ある国」というのがぴったりの印象だ。
tanto.sunnyday.jp/kokusai/1997/1997-09sri.htm

◆ 「インド洋に落ちた一滴の涙」、あるいは 「インドから落ちたマンゴー」、どちらもなんとも美しい詩的表現で、けっして「揶揄」などではない。とくにマンゴーの比喩が秀逸だと思うけれど、日本語以外でこの表現を見つけることができないでいる。涙の方が一般的なようで、英語では「Teardrop of India」という表現をよく見かける。

◇ Sri Lanka is shaped like a giant teardrop falling from the southern tip of the vast Indian subcontinent.
withanage.tripod.com/scenic.html

◆ それにしても、北海道より小さな島だったのか。外務省のデータによると、

◇ 65607km2(北海道の約0.8倍)
www.mofa.go.jp/mofaj/area/srilanka/data.html

◆ おまけに、《国土地理院》 のデータ(平成15年10月1日時点)によると、北海道の面積は 77982.31km2、九州 36733.48km2、四国 18298.14km2 だそうだ。なるほど。なんとも正確そうな数字である。

◆ おまけのおまけ。「教えて! goo」の質問より。

◇ 知り合いがこの冬に北海道を旅行したときに聞いた話らしいのですが・・・。 / 北海道の面積は実は本土の面積とそんなに変わらない。ただ日本地図はバランスを考えて今の様に描かれているというのです。 // このことについて詳しくご存知の方がいらっしゃったら教えてください。
oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=808298

◆ で、機会があったらすぐにでも行こうと思っていたスリランカだが、また実際、去年の11月ごろ、仕事もヒマだったので、ぜひとも行こうと思ったのだが、さてパスポートは? と探したときに、見つからなかった。なにせ10年近くも(以上かも?)使っていなかったんである。見つかったとしても、有効期間がとっくに切れてるやもしれぬ。ううん、面倒くさいな。というわけで、あっさり断念してしまった。そして時は流れて、今年の6月、またまた仕事がヒマになって、ああスリランカだ、と思い出して、ふたたびパスポートは、と探してみると、今度はあっさり見つかった。有効期限は? うん、大丈夫。まだ1年以上ある。更新してから一度も使ってないので、スタンプひとつない。もったいない。これは行くしかない。というわけで、あわてて、計画を立て・・・

◇ 茨城県猿島町逆井、同県立岩井西高1年、平田恵里奈さん(16)殺人事件で、平田さんの携帯電話は、交際していたスリランカ人の男(36)が買い与えたものだったことが23日、県警境署捜査本部の調べで分かった。男は、平田さんとの交際について説明しようと捜査本部を訪れたが、在留期限を過ぎていることが発覚し、入管法違反(不法残留)の疑いで現行犯逮捕された。 / 男は00年12月に観光ビザで入国、滞在期限の3カ月を過ぎても不法に残留していた。捜査本部は、平田さんの交友関係について事情を聴いている。
www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040624k0000m040105000c.html

◆ 6月にスリランカに行ったのは、ひとつには、友人に会うためだった。元仕事仲間。かれは12年も日本にいた。「滞在期限の3カ月を過ぎても不法に残留していた」 のだ。12年という歳月。だれよりも仕事ができたヤツだった。一年前の4月、現場に早く着きすぎて、うろうろしていたら、近所のオバサンに通報された。2ヶ月ほど立川警察署の留置場にいた。写真は、その接見室で、面会に行ったときのもの。帰国(強制送還)後、職場のみなさんスリランカに遊びに来てください、との手紙が届いて、機会があったらすぐにでも行こうと思っていたのだが・・・。

06/18/2004◆ ここはヒッカドゥワというところ。スリランカでもっとも名の知れたビーチリゾート。だけど、だれもいない。6月は雨季で、オフシーズン。モンスーンで荒れた海。

◆ なぜだかジャームッシュの映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の一場面を思い出す。真冬のエリー湖。何も見えない。だれもいない。

06/18/2004◆ ヒッカドゥワで泊まったのは「PARADISO HOTEL」。ほかにはだれもいない。ワタシは Stranger in Paradise。天国ホテルで極楽極楽。

◆ ヌワラエリアの郊外に、バスが止まっていた。ワタシにはなじみのある塗装色。どうみても京都の市バス。京都の市バスを京都で見てもなんということはないけれど、スリランカで京都の市バスを見るのは妙な気分がする。表示をみると、RAJARATA UNIVERCITY OF SRI LANKA とあって、どうやら大学のバスのようだ。中にはいると、路線図などもそのままで、ますます妙な気分がした。

◆ こんな 「たまたま」 は不思議と呼びたい。ワタシは京都生まれだったから。そうして、旅先で知り合って、このバスを一緒に見た女の子も京都のひとだったから。なんだか、できすぎた話、ではある。