MEMORANDUM

【スリランカ】  Blackbird fly

◆ 古都キャンディのペーラーデニヤ植物園を歩いていると、ひとりのフランス人がビデオを空に向けて回しているのに出くわした(いや、もしかしたら、通じないにもかかわらず、わざとフランス語を使っているひねくれたアメリカ人だったのかもしれないが、それは本人に聞いてみないとわからない)。なんで空なんか撮っているのか、とワタシも空を見上げてみると、黒い鳥たちが樹の上を旋回しているのが見えた。なんの鳥だろう、とさらに目を凝らすと、鳥ではなくコウモリだった。このコウモリが珍しい種類であったのか、あるいはこのフランス人にとってコウモリそのものが珍しいものであったのか、それはわからない。植物園に来てコウモリを撮るというのも妙なハナシだが、ワタシもつられて手にしたデジカメを空に向けてコウモリの写真を撮った。

◆ それにしてもコウモリがどうしてこんな昼間に飛んでいるのだろう。スリランカのコウモリは夜行性ではないのだろうか。そんな疑問が脳裏をかすめたとき、コウモリの飛んでいた樹木の下からひとりの男がやってきて、手を差し出した。「写真撮っただろ」。この瞬間、すべての疑問が氷解した。なるほど、この男が樹の幹を叩いて、寝ていたコウモリたちを追い立てていたのである。昼行性のコウモリなんているわけがない。寝床が揺れて騒々しいものだから、寝ていられなくなって、いやいや空に逃げ出しただけだったのである。というわけで、この男はたしかに仕事をしていたのだから、その報酬を要求するのは当然のことで、一枚しか写真を撮らなかったとはいえ、ワタシは(おそらくは高すぎる)写真代を支払うことになったのだった。

◆ コウモリはフランス語で chauve-souris。禿げたネズミの意。そういえば、あのフランス人に似ていなくもなかった。

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