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◆ 水上勉『停車場有情』の「篠ノ井線松本駅」から。昭和21年冬。 ◇ 雪の降る一日、所在のないまま外へ出て、駅のぐるりを歩いた。西の方へ町通りを歩いていると、神明町とよぶ遊郭があった。遊郭というよりも淫売宿といった名称が似合う。貧相なトタン屋根の平屋がひしめいていて、赤い顔をした娼妓たちが、股火して外を見ていた。 ◆ 「股火する」という表現を知らなかったので、辞書で調べると、「股火鉢」を経由して、「金玉火鉢」というコトバにたどり着いた。 |
◇ 昔の東京人には引越好(ずき)の人が多かった。斜(ななめ)に貼った貸家札は町をあるけばいくらでも眼についた時分、家賃三月分の敷金さえ納めればいつでも越せる御時世だったからでもあったが、やはり時々固まった生活のしこりを解きほごして新しい空気を通わすのに格好な手段だった。 ◆ 久しぶりに引越をした。他人のではなく自分の引越。とうのむかしに「家に厭きて」いたのに気がつかないふりをして過ごしてきたら、十四年がたっていた。がちがちに「固まった生活のしこり」も、すこしは解きほごれて、すこしは新しい空気が通うようになっただろうか? とりあえず日当たりはよくなった。 |
◆ 昨日の「天声人語」に、 ◇ ホンダ、ソニーと紛らわしい「HONGDA」のオートバイや「SQNY」の乾電池が出回った国である。中国のコピー癖に今さら驚きはしないが、国の威信をかけたイベントまでとはニセモノ天国も半端じゃない。 ◆ 「HONGDA」のオートバイに「SQNY」の乾電池、思わず笑ってしまうこの種のネーミング。「パチもん」というコトバがすぐに浮かんだが、これは関西方言だったか? 標準的なコトバでは「コピー商品」? ◇ 〔日本語俗語辞書〕 パチモノは関西で盗むという意味の「ぱちる」と「品物」の合成語で、デザインや機能を盗んだ品物ということから、こう呼ぶようになったという説、また「うそっぱち」のパチからきたという説もある。「パチモン」と崩した言い回しのほうが広く浸透している。 ◆ さらには、「コンパチブル(compatible)」のパチからという説もあるらしいが、これはどうだろう。関西出身のワタシとしては、「ぱちったモノ」を語源とするのがしっくりする。この「モノ」はたいていは「物」だろうが、「者」の場合もないとはいえない。「パチ者(もん)」の例を、先日9日に亡くなった井上ひさしの小説から。 ◇ 「旦那さん方もずいぶん耄碌しているんだね。ビラの字がよく見えなかったんだろ。ビラには“ちあき たおみ”“五本ひろし”と書いてあったはずだよ」 ◆ いや、「パチ者」の入力は面倒だものだな。 |