◆ 2009年8月14日の「天声人語」に柚子坊のつづき。 ◇ そのアゲハの幼虫、柚子坊(ゆずぼう)のことを先日書いたら、思いのほか多くの便りをいただいた。「緑濃き下蔭(したかげ)を舞ひ黒揚羽(あげは)〈危険な関係〉を愉(たの)しむごとし」と、東京の篠塚純子さんはかつて詠んだ歌を送ってくださった。庭では毎年、アゲハが生まれるそうだ▼仙台の池沢祐子さんからは、羽化した黒アゲハの美しい写真が届いた。庭木の柚子坊が次々に鳥に食べられるのを見かね、5匹を網の中へかくまってユズの葉を与えたそうだ。育った蝶は外へ放したという。嫌われがちな柚子坊も、やさしさに感謝だろう▼便りは女性からが大半だった。昆虫といえば少年の専売のようだが、王朝文学の「虫めづる姫君」のDNAが連綿と流れているのだろうか。とはいっても、客観写生を説いた俳人の虚子に〈命かけて芋虫憎む女かな〉の一句もあるから、世の柚子坊よ、油断は禁物かもしれぬ▼わが家の鉢植えミカンの柚子坊は、鳥の目をかいくぐってサナギになり、地震で揺れた朝に羽化した。黒地に黄色のナミアゲハだった。ナミは「並」。ありふれたゆえのやや失敬な名だが、蝶のあずかり知らぬことである▼柚子坊を育て上げた木は葉がだいぶやられた。ピンポン球ほどの青い実を涼しげにぶら下げて、ひと仕事を終えた風情で日を浴びている。 ◆ 読者の短歌に「緑濃き下蔭を舞ひ黒揚羽」。2009年8月3日の「天声人語」に「わけても日盛りの黒アゲハは神秘的だ」。クロアゲハは(川上弘美のように)日陰を好むので、読者の短歌の方がより写生的であるということはいえるだろう。 ◆ 「虫めづる姫君」のDNAの継承者のひとりに柳美里がいる。 ◇ ご存じのかたもいらっしゃるとは思いますけど、わたくし、大の虫好きなんでございますのよ。小学生のころは、「虫博士」と呼ばれておりました。将来は、昆虫に携わる仕事をしたいと思っていたものです。いつか、余生といえるような時間が訪れたら、昆虫採取に没頭したい。 ◆ 「命かけて芋虫憎む女」も数多くいることだろうが、蓼(たで)食う虫も好きずきで、 ◇ 養老 虫好きの女の子って、意外にたくさんいるんだけどね。つい二、三日前、「ゲジゲジは可愛い」とか言う子がいて、びっくりした。 ◆ 「うちの女房」、五感のうちでも触感を重視するあたりが女性的であるのかもとも思ったり。とはいえ、いちばん多いのは、やっぱり「虫めづらない姫君・たち」だろう。 |
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