MEMORANDUM

  ひざし

◇  デートをした。
 男の人と、である。なにも念を押すこともないのだが、なかなかこの年この境遇(既婚)になると、こういう機会はめぐってこないので、念を押しておきたい。
 上野の、国立博物館に行った。平等院展をやっている。前の日まで来ていた台風が去って、気温がどんどん上がっている。ひざしは強く、影は濃い。
 わたしは暑さに弱いので、日陰をつたって歩く。まっすぐに歩いていると日陰に入れないので、くねくねと妙なみちすじを辿る。デートの相手は、遠まわりしてみたりじぐざぐに歩いてみたりするわたしにあわせて一緒に歩いてくれる。でも、ちょっと困っているみたいだ。

 川上弘美 『なんとなくな日々』(新潮文庫,p.98-99)

◆ 以前は「ひざし」に無頓着だったので、こんな人とデートをしたら、「ちょっと困」るどころか、いらいらしてしようがなかっただろうと思う。けれど、去年あたりから、ときどき暑さに負けそうになる。川上弘美のように、日陰をつたって歩きたくなったりもする。これまで他人の日傘や帽子を見ても、ファッションとしか思えなかったが、さいきんはつくづく、ああ、あれは実は日除けだったんだな、とあたりまえのことに気づくようになった。年をとるのも悪くはない。今日もまた暑いだろうか?

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