MEMORANDUM

  アスナロの希望

◇ 「あすは檜(ひのき)になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって! それであすなろうと言うのよ」
 と、多少の軽蔑をこめて説明してくれたことが、その時の彼女のきらきらした眼と一緒に思い出されてきた。

井上靖 『あすなろ物語』(新潮文庫,p.42)

◆ 上の文章の「あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ」のところを、なぜだか、「あすは檜になろうと一生考えている」と読んでしまい、ヒノキになることを「一生」考え続けているアスナロの「人生」にいいようのない救いのなさを感じてしまった――。けれど、アスナロはほんとに「永久に」ヒノキになれないのだろうか? 長嶋茂雄の名セリフ「わが巨人軍は永久に不滅です」じゃあるまいし(それにジャイアンツだって、滅亡しかかってるんじゃないのか?)。

◆ たとえば、「永久」の一歩手前くらいには、こんなことだってあるかもしれない(ワタシが土星に帰るよりは可能性があるだろう)。

◆ その1。新型ウィルスの影響で、地球上からヒノキが絶滅してしまう。そうすれば、ヒノキの名前が空くので、アスナロはどうどうとヒノキを名のれるだろう。

◆ その2。絶滅しないまでも、地球環境のなんらかの変化にともなって、ヒノキの材木としての品質がいちじるしく低下してしまう。そうすれば、ひとびとは「こんなのヒノキじゃない!」といって、ヒノキからその名前を取り上げてしまうだろう。昨日まではヒノキだったかもしれないが、いまはそうじゃない、ということで、ヒノキを「モトヒノキ」とか「ムカシヒノキ」とか「キノウハヒノキ」とか「キノウマデ」とか「ヒノキノナレノハテ」とか呼ぶようになって(もしかしたら、もう一度チャンスを与えるうえで、「アスナロ」と呼ぶかも?)、アスナロをヒノキと呼ぶようになるだろう。

◆ このことに関連して、アカシアとニセアカシア、また、パンダと「レッサーパンダ」などのことも書こうと思ったが、長くなりそうなので、またいずれ。

関連記事:

このページの URL : 
Trackback URL : 

POST A COMMENT




ログイン情報を記憶しますか?

(スタイル用のHTMLタグが使えます)