MEMORANDUM

  嫁が君

◆ 一ヶ月前に 「ねずみに轢かれる」 というハナシを書いた。そのなかで、ワタシのボロアパートではネズミを 「さいわい、ここ数年は見かけない。音も聞かない。どこへ行ったのだろう」 と記したことを、まさか当のネズミが聞きつけたわけではあるまいが、まったくよすぎるタイミングで、数年ぶりにネズミが出た。チーズ色をしたビタミンCのタブレットを口にくわえていた。チーズと間違えたのか、それともビタミンが不足していたのか? 小さなネズミだった。なんだか夢のようでもある。

◆ 「嫁が君」 というコトバがある。オンライン辞書を引くと、

◇ ネズミの別名。特に正月三が日に忌み詞として使う。《季 新年》「行灯(あんどん)の油なめけり―/子規」
『大辞泉』(小学館)

◇ 鼠(ねずみ)の異名。特に新年、鼠をさしていう忌み詞。[季]新年。《三宝に登りて追はれ―/虚子》
『大辞林』(三省堂)

◆ 「嫁が君」 という言い方はちょっと気取っていて、いまでは俳句でしか使われないかもしれない。地方では、もっと簡単に、ヨメ、ヨメサン、オヨメサンとも言ったとか。

◇ 特に正月の間に限って、この鼠という名前を忌んで、ヨメゴとかヨメサンとか呼んでおり、俳諧の季語にも 「嫁が君」 という言葉を使っています。
www.kodomo.go.jp/images/event/evt/2004-10/2004-10-text.pdf

◆ あるオヨメサンの悲劇。

◇ 第二次大戦後のことですが、岡山県か兵庫県の山奥の田舎で、戦時中疎開してそのまま居着いてしまった家族のところへ、隣組からこの 「亜砒酸入りの団子」 がネズミ駆除用に配られた時、先の忌み言葉で 「およめさんのための団子」 といわれたのを、地付きでない一家だったためにネズミのこととは理解できず、ほうとうにお嫁さんが口にして中毒死したという悲劇があったそうです。
山崎昶 『家庭の化学』(平凡社新書, p.46)

◆ わがボロアパートのオヨメサンよ、元気にしてるのはわかったから、それから毒入りダンゴを食べさせたりもしないから、あいさつはしばらくなしでいいよ。わかったかい?

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