MEMORANDUM

【注文の多い引越屋】  ヒモをかける

◇ 宅配便が発達してから、ナワやヒモで荷造りすることはなくなり、ガムテープを貼ってすます。かく書きながらわが家を見回しても、しばってあるのは。エー、明日の朝出す分別ゴミの雑誌の山と、あとないか、ひとつあった。蛍光灯のプルスイッチのヒモ。読者にも、自分が最後にしばったのはいつなのか思い出していただきたい。たいてい遠い日のことにちがいない。
藤森照信 『天下無双の建築学入門』(ちくま新書,p.14)

◆ 宅配便のせいかどうかはしらないけれど、たしかに荷造りのダンボール箱にヒモをかけるひとはめっきり減った気がする。いまでも几帳面にひとつひとつの箱にヒモをかけてあるのはたいてい、いや100%、年配の方である。境界は六十前後といったところだろう。引越屋にとっては、正直なところ、ガムテープだけで十分で、ヒモがかけてあると却ってジャマになったりする。トラックの荷台で、前方に押しやろうとしてもすべりが悪いし、重ねて積もうとするとすぐ引っかかる。それでも、お客さんの部屋に入って、丁寧にヒモがかけてあるダンボール箱の山を目にすると、キチンと荷造りをしてくれたことに対して思わず感謝したくなる。ダンボール箱にヒモをかけるようなひとの荷物はいつも整然として美しい。細かいところまで整理整頓されていて無駄なところがない。くわえて言えば、そうしたひとの多くが、写真の 「桃源荘」 のようなところで質素な暮らしをされており、たいした家財道具はないにしても、それを大切に使っておられることはそのモノを見れば一目瞭然である。掃除をするときは、電気掃除機など使わず、ホウキとチリトリで事足りるようなそんな暮らし。それが一人暮らしの男性であったりすると、そんなときには、ワタシもこんな風に年をとりたいと、思ったりもする。そういう方の引越をやるのはとても楽しい。

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