MEMORANDUM

【注文の多い引越屋】  引越屋になりたい

◆ 職業に貴賤はない。ということになっているので、べつに引越屋に憧れる子どもがいたとしても、なんの不思議はないけれど、実際にそういう子どもに出会ったときには、ことのほかうれしい。

◆ ちょうど小学校の下校時間に仕事をしていた。たくさんの小学生がトラックの傍らを通り過ぎていく。けれど、ひとりの男の子だけは通り過ぎない。立ち止まって積み込み作業をじっと見ている。まるでわれわれの一挙手一投足を一瞬たりとも見逃すまいといった感じの、こちらがびっくりするほどの視線でもって。5分たっても10分たっても、じっと見ている。そのうち、われわれのだれかが(ワタシであったかもしれない)、その子に「ちょっとやってみるか?」と声をかけた。おそらくはとってもシャイなその子は、一瞬驚きの表情を見せるが、恥ずかしそうにトラックへと歩み寄る。「そこのダンボールをこっちまで持ってきてくれ」と言うと、一生懸命に持ってくる。「次はそれ、ちょっと重いぞ」。大丈夫なようだ。そんな風にして、われわれの一員として「働いてる」その子の傍らを友達が通り過ぎていく。クラスメイトが彼を見つけて、はやしたてる。

◇ おまえ、引越屋になりたいのか?!

◆ その子は答えない。ただ、だまってうなずく。そのときのかれの満足そうな顔!

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