MEMORANDUM

◇ 『プロジェクトX』で感動している人というのは、ほとんど初めから泣くためだけに見てるんだろう。中島みゆきの歌が聴こえてきただけで、涙ぐむ人もいるそうだ。パブロフの犬だね。黒部ダム秘話で泣いている一方で、ニュースを見ながら「長野県にダムを作るのはけしからん」なんて言いかねない。目的は知識を仕入れることとか、考えることではないから、矛盾していても構わない。
ビートたけし 『裸の王様』(新潮新書,p.90)

◆ パブロフの犬ってどんな犬だっけな、と思って、ウィキペディアで「イワン・パブロフ」を引くと、画像もあった。画像に付されたコメントによると、パブロフの犬のうちの1頭で、パブロフ博物館に展示されている「バイカル」(かもしれない possibly)らしい。バイカルか、なかなかいい名前だ。《教えて!goo》にこんな質問。

◇ 条件反射で有名なパブロフの犬ですが、普通はポチとかジョンとか固有名があるはずです。ご存知の方がいたら教えてください。
oshiete1.goo.ne.jp/qa1309402.html

◆ ポチとかジョンか。まあ、ポチはないだろな。この質問者に限らず、「パブロフの犬」の名前を知りたいひとは意外と多いようで、ほかにも《パブロフが実験に使った犬の名前を教えてください。 - 人力検索はてな》とか《「パブロフの犬」の犬の名前を教えてください。。。。 - Yahoo!知恵袋》とか。

◆ 後者の質問者は、「特定の一頭に対しての実験ではなかったようで、飼い犬の名前に関する記述は見当たらない」という回答に対し、

◇ 考えてみれば、実験動物に名前を付けるアホはいませんね。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?queId=8437149

◆ とコメント。質問しといて、それはないんじゃない? フランス語のサイトでも、《Comment s'appelait le chien de Pavlov ? - Yahoo! Questions/Réponses》とか《Quel était le nom du chien de Pavlov ? - LYCOS iQ》とか。どうも、パブロフの犬は1頭(匹)だと思い込んでるひとが多いようだ。物書きの Dave Fox さんも、

◇ Anyway, what I was thinking about Pavlov's dog is that he (or she) is one of the most famous dogs in history. I mean, name some other famous dogs: Snoopy, Lassie, Benji -- they were all either cartoons or actor dogs. Pavlov's dog was a real, non-fictitious doggie. Yet nobody knows what his (or her) name was. We don't even know the dog's gender. We just know him (or her) as "Pavlov's Dog." It's kind of a shame. The dog did all that salivating, and it got no credit for it's contribution to science.
davefox.typepad.com/home/2005/08/a_dog_with_no_n.html

◆ と書いて、漫画や映画の犬にだって、スヌーピーやラッシーやベンジーみたいに、ちゃんとした名前がついているのに、実在し科学の進歩に多大の貢献をしたパブロフの犬に名前がないのは(おまけに性別もわからないのは)、恥ずべきことだ、と憤慨している。

◆ けれど、パブロフの犬(たち)に名前がなかったわけではない。パブロフ博物館の展示品のひとつに、革表紙のアルバムがあって、

◇ アルバムに並んでいるのは、研究所で飼われていた犬たちの写真だった。これは研究所のスタッフが、パブロフの誕生日に贈ったものだという。〔中略〕 すべての犬たちには、ちゃんと名前があったようで、それぞれの写真の下に美しいデザイン文字が記されていた。ドゥルジョーク(友だち)、チョールヌィ(黒)、ジャック、イカール(イカロス)、ムラーシュカ(蟻)、レックス、ノールカ(ミンク)、クラサヴェッツ(美男子)、ノールト(北風)、カロース、ツングース、ルィージィ(赤毛)――。
片野ゆか 「プロジェクト・ドッグス(条件反射でワン、ワン、ワン! ~パブロフの犬を訪ねて 前編)」『小説すばる』(2008年9月号,p.250-251)

◆ 「プロジェクトX」で始まり、「プロジェクト・ドッグス」で終わるとは、なんともよくできた構成だこと、と自画自賛しておいて、終わらずに続ける。Tim Tully という科学者もパブロフ邸(パブロフ博物館)でそのアルバムを見たそうで、

◇ After several dead ends, and on the final day of his visit, Tully was invited for a private tour of Pavlov's home. There he struck gold when the curator showed him a photo album inside which were photographs of forty of Pavlov's Dogs, along with their Russian names (e.g. Rosa, Mirta, Norka, Trezor, Visgun, Jurka, Jack, John. Photographs and complete list of names is available at http://www.cshl.edu/PDogs/).
www.cshl.edu/public/releases/press021703.html

◆ パブロフの犬たちの写真と名前のリストが、"http://www.cshl.edu/PDogs/" で見られる、ということで、さっそくその URL をたどってみたが、「Web ページが見つかりません」。ちっとも available ではない。《Internet Archive Wayback Machine》というのを使って、なんとかリストだけは見ることができた。

◇ 01 - valiet-1, 02 - tungus, 03 - iks, 04 - umnitza, 05 - valiet-2, 06 - barbos-1, 07 - laska, 08 - valiet-3, 09 - ikar, 10 - rogdai, 11 - arleekin, 12 - krasavietz, 13 - postrel, 14 - norka, 15 - beck-1, 16 - beck-2, 17 - toi, 18 - rafael, 19 - milkah-1, 20 - avgust, 21 - ruslan, 22 - milkah-2, 23 - murashka-1, 24 - bely-1, 25 - rex, 26 - mampus, 27 - novichok, 28 - mirta, 29 - pingiel, 30 - bely-2, 31 - rijiy I, 32 - diana, 33 - milord-1, 34 - zolotisty, 35 - rosa, 36 - gryzun, 37 - chingis khan, 38 - chyorny, 39 - baikal, 40 - box, 41 - molodietz, 42 - milord-2, 43 - barbos-2, 44 - dikar, 45 - nord, 46 - drujok, 47 - trezor, 48 - jurka, 49 - jack, 50 - murashka-2, 51 - martik, 52 - premjera, 53 - joy, 54 - visgun, 55 - arap, 56 - zlodey, 57 - rijiy II, 58 - lis, 59 - lady, 60 - john
www.cshl.edu/PDogs/

◆ このリストもじっくり見るとおもしろそうだが(チンギス・カンなんてのもいる)、ちょっと疲れたので、また今度。ああ、そうそう、「ポチとかジョンとか」のジョンまでホントにいたよ。驚いた。ポチはやっぱりいないけど。

  服と家

◇ 「衣・食・住の三つのうち、食はちょっと特別だけど、衣と住は、どう区別できる? 答えられる人はいますか?」
森博嗣 『詩的私的ジャック』(講談社文庫,p.19)

◆ 公園のベンチにすわって読んでいた推理小説に、そう書いてあった。衣と住に違いについて。でも、答えは書いてない。「ねえ、キミは、家に住んでるのかい? それとも服を着てるのかい?」 そばにいたカタツムリに聞いてみても、いそがしいようで答えない。しようがないので、自分で考えよう。

◆ しばらく考えて、こんな結論を出した。

◇ 服は自分のためだけのもの。家は自分とだれかのためのもの。

◆ なかなかわるくない、と思うんだけど、どうだろう? 自分の服を自分で着てもさみしくはないけど、自分の家に自分だけで暮らしてるとちょっとさみしい。でも、だれかってだれかな?

◆ さて、とベンチを立とうとしたときにカタツムリが言った。「さっきの質問だけど、オレのこの殻は、家でもないし服でもないと思うんだ。ヤドカリじゃないんだから、とりかえることができない。あえていうと、皮膚だな、これは」 なんだ、ちゃんと考えてくれてたんだね。どうもありがとう。

♪ だけど今は 貴方への愛こそが 私のプライド
今井美樹 「PRIDE」(作詞:布袋寅泰)

◆ ついでにもうひとつ。1996年のヒット曲。華原朋美「I'm proud」(作詞・作曲:小室哲哉)。今井美樹「PRIDE」(作詞・作曲:布袋寅泰)。いろんな意味で、似てる。

◇ 朋ちゃんこと華原朋美さんの「I'm proud」、良く聞いてました。1996年のヒット曲です。/ 歌詞の「街中で寝る場所なんて どこにもない 身体中から涙こぼれていた」とか「最善をつくしても わかりあえない人もいた」とかいう部分が好きだったんですよね~。作詞はご存知小室哲哉さんです。/ で、同じ年に今井美樹さんが「PRIDE」をヒットさせています。森山直太朗さんと河口恭吾さんの「さくら(桜)」と似た状態ですよね。この時も友達とヒット曲の話をしていて勘違いしたりしてた記憶があります。「PRIDEって華原朋美の歌でしょ」とか(^-^;
blog.hitsong.jp/?date=20050813#p05

◆ 「PRIDE」の、

◇ 歌詞の内容は、恋をした女性が、「今は恋人を愛することが私自身のプライドだ」と考え生きていくというもの。歌詞のテーマがOLなどの若い女性層に高い人気を集め、カラオケでの定番曲となった。
ja.wikipedia.org/wiki/PRIDE_(今井美樹)

◆ 「I'm proud」も、ほぼ同じ。いや、受容層がだいぶ違うか? さらに、

◇ 「PRIDE」も「I'm proud」も、男性が作詞していることに注意しておきたい。
homepage2.nifty.com/dfujikawa/kayou.html

◆ しかも、たんなる「男性」ではなく、歌い手の女性にとって「特別な」男性が曲を提供していることに注意しておきたい。いや、提供したから「特別な男性」になったのか。それにしても、小室哲哉×華原朋美+布袋寅泰×今井美樹、たった4人の人間なのに、脇役も多数いて、かれらの人生を追いかけるだけでめまいがする。みなとてつもないエネルギーの持ち主なんだろう。

◆ 2006年の紅白歌合戦。

◇ 「第57回NHK紅白歌合戦」が12月31日、東京都渋谷区のNHKホールで行われた。今年の目玉の1つだった今井美樹(43)、布袋寅泰(44)の夫婦共演。「PRIDE」の中奏で布袋のギターソロが始まると、それまで緊張気味だった今井の表情が思わず緩んだ。終演後、今井はコメントを避けたが、「楽しく歌えた?」の問いに「ハイ」と笑顔を見せた。

◇ それにしても布袋は浮気したのに今井美樹はよく許しましたね。共演までしちゃって。―― やっぱ今井美樹のプライドでしょう。。。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1410450994

◆ まあ、いろんなプライドがあるんだろう。あと、徳永英明がVOCALISTシリーズで「PRIDE」を歌っていて、その歌詞をネットで検索すると、

♪ だけど今は 貴女への愛こそが 私のプライド

◆ と、「貴方」が「貴女」になっていたが、これはどういうことなのだろう? よくわからない。

◆ 前の記事のつづき。自らの人生と重ね合わせるようにして、「栄枯盛衰。諸行無常です」と記したその直後に、ホリエモンは、

◇ 小室さんの作品では、やっぱ朋ちゃんが一番好きだな~。

◆ と書いて、面目躍如。なるほど、華原朋美は小室哲哉の「作品」だったのだなあ、と妙に納得。意図したわけではないだろうけど(「小室さんの作った曲では、やっぱ朋ちゃんが歌った曲が一番好きだな」の意味なんだろうけど)。

♪ I'm proud いつからか自分を誇れる様に
♪ なってきたのはきっと あなたに会えた夜から

華原朋美 「I'm proud」(作詞・作曲:小室哲哉)

◆ とまあ、こんな男性が書いた(デタラメとしか思えないような)歌詞を、このうえなくすてきなプレゼントであるかのように受け取って嬉々として歌う女性の心理というのも、正直なところ、あまり理解したくはないけれど、

◇ 休業中の今年の始め。華原が何回も見たテレビがある。それは細木数子の特別番組で、小室の伴奏で妻のKEIKOが「I'm proud」を歌っていたもの。デビュー翌年に小室が華原のために作った名曲中の名曲である。「私ね、少なくとも10回以上は見た。何回でも見ちゃう・・・何回でも見ちゃうの。」 この言葉には胸が痛んだ。
news21.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1183260737/

◆ というようなハナシを耳にすると、いくら自分の「作品」だからって、そりゃあんまりだな、とも思ったり・・・。

◆ ホリエモンが自己のホームページ《六本木で働いていた元社長のアメブロ》で、

◇ 栄枯盛衰。諸行無常です。
ameblo.jp/takapon-jp/entry-10160391144.html

◆ と、小室哲哉の逮捕にかんして、コメント。どうせなら、「栄枯盛衰」ではなくて、(ワタシがちょっと前に「盛者必哀」という記事を書いたという個人的な理由から)「盛者必衰」と(書くのではなく)発言してくれれば、なおのこと、よかったのだが。

《四字熟語データバンク》によれば、「栄枯盛衰(えいこせいすい)」の類義語として、

◇ 栄枯浮沈(えいこふちん) / 盛者必衰(じょうしゃひっすい) / 一栄一辱(いちえいいちじょく) / 一栄一落(いちえいいちらく) / 一盛一衰(いっせいいっすい) / 栄枯転変(えいこてんぺん) / 興亡盛衰(こうぼうせいすい) / 七転八起(しちてんはっき) / 消長盛衰(しょうちょうせいすい) / 消長遷移(しょうちょうせんい) / 盛衰興亡(せいすいこうぼう)
www.sanabo.com/words/archives/2004/03/post_46.html

◆ が挙げられており、ずらりと並んだ四字熟語に、見とれてしまうが、まあ、自分でこれらのコトバを使うことは今後まずないだろう。

◆ 以下、おまけ。ホリエモンのホームページの当該記事にたいする読者のコメントに、こんなの。

◇ 悪い事かも しれませんが/皆さんも何度か小室さんの曲で救われませんでしたか? 芸術かや天才といわれる人は人生を踏み外すことはしばしばある/小室さんもプライドがあるとは 思いますが国民に 頭をさげて お金を集めれば10億 20億すぐに 集まると思います(別にファンではない)/自分も小室さんの曲に勇気をもらった事があります これは お金にはかえれない 時間です/小室さんの寄付金を集めてはいかがでしょうか/そして日本が誇る音楽をもう一度作ってくれるはずだと信じます
ameblo.jp/takapon-jp/entry-10160391144.html

◆ たまたま、東京電力のCMを見たら、これがなかなかおもしろかった。若い女性のロボット(関めぐみ)が、

◇ 「わからない、わからない、わからない」

◆ と、言いながら、頭から湯気を出していた。ショートしてしまったらしい。「日常のふとした会話」がロボットには理解できない。たとえば、風呂から上がって気持ちよくなった妻夫木聡が思わず、「しっかり汗かけて、カラダの中からきれいになって、生まれ変わったみたいだ」と言うと、ロボットは、

◇ ーー生まれ変わった?
ーーうん。
ーー誰に?
ーー僕に。

◆ ここでまた、ロボットは理解不能になってショートしてしまう。そうして最後に、ロボットは一日を反省するように、屋根の上で夜空を見上げながら、

◇ 「人間って、わからない」

◆ と、つぶやく。

◆ 似たようなことは日常茶飯事だ、とロボットに共感しながら、そう思う、「人間って、わからない」。そもそも同じものに生まれ変わることができるのかどうか? これはロボットの言い分が正しいのではないか?(そんなことはどうでもいいが)

◆ 人間って、わからない。世の中、わからないことばかりで、土星人のワタシの頭もショート寸前。

◇ ただ、転んでもただは起きないお角が、駒井甚三郎の男ぶりに打込んで、これに入れ上げようとして通うものではなく、かえって駒井を利用するの意味で御機嫌を伺っているのだということだけは、どちらにもよくわかっているはずです。
中里介山 『大菩薩峠 小名路の巻』(青空文庫

◆ 「受領は倒るる所に土をつかめ」と似たようなことわざに「こけた所で火打ち石」「こけても馬の糞」なんてのもあるそうだが、もっとも一般的なのは、「転んでもただ(で)は起きない」だろう。

◆ 小説からではなく、現実からの用例を挙げると、

◇ 友人にも「今はお金がないので、まだ離婚するときではない。いかに自分が有利な条件で離婚できるか考えている。そのときまで待つ」などと打ち明けたことも。また、祐輔さんと夫婦げんかをした際、仲裁にやってきた友人には「離婚はする。でも、私がこの人の尻をたたいて、今の会社に入り、これだけの名誉や収入を得るようになったのに、どうして私だけが泣きを見て別れなくちゃいけないの。私は転んでもただでは起きない」などと話していました。
sankei.jp.msn.com/affairs/trial/071220/trl0712201208012-n1.htm

◆ 渋谷バラバラ殺人事件の被告の発言だそうで。