◆ 今年のセンター試験の国語の問題に「批評の神様」小林秀雄の文章が出題されたというので読んでみた。どれどれ。
◇ 鐔(つば)というものを、ふとした機会から注意して見始めたのは、ここ数年の事だから、未だに合点のいかぬ節もあり、鐔に関する本を読んでみても、人の話しを聞いてみても、いろいろ説があり、不明な点が多いのだが。
◆ 最初の「鐔」という漢字からしてフリガナがなければ読めなかった。以下、合点のいかぬ節もあり、こちらは骨董の趣味はなく、また受験生でもないので、読み飛ばす。早くも最終段落にたどり着いた。
◇先日、伊那にいる知人から、高遠城址の桜を見に来ないかと誘われた。実は、この原稿を書き始めると約束の日が来て了ったので出掛けたのである。高遠には、茅野から杖突(つえつき)峠を越えて行く道がある。峠の下に諏訪神社の上社がある。雪を残した八ヶ岳の方から、冷たい風が吹いて、神社はシンカンとしていた。境内の満開の桜も見る人はなかった。私は、高遠の桜の事や、あそこでは信玄の子供が討ち死にしたから、信玄の事など考えていたが、ふと神殿の後ろの森を見上げた。若芽を点々と出した大木の梢が、青空に網の目のように拡がっていた。その上を、白い鳥の群れが舞っていたが、枝には、近付いて見れば大壺ほどもあるかと思われる鳥の巣が、幾つも幾つもあるのに気付いた。なるほど、これは桜より余程見事だ、と見上げていたが、私には何の鳥やらわからない。社務所に、巫女姿の娘さんが顔を出したので、聞いてみたら、白鷺と五位鷺だと答えた。樹は何の樹だと訊ねたら、あれはただの樹だ、と言って大笑いした。私は飽かず眺めた。そのうちに、白鷺だか五位鷺だか知らないが、一羽が、かなり低く下りて来て、頭上を舞った。両翼は強く張られて、風を捕え、黒い二本の脚は、身体に吸われたように、整然と折れている。嘴は伸びて、堅い空気の層を割る。私は鶴丸透かしの発生に立会う想いがした。
◆ 「杖突峠」という地名にそそられる。あとは、白鷺だか五位鷺だか。それくらいかな、感想は。画像は、白鷺(コサギ)に五位鷺。うしろにはアオサギもいる。水中にはアザラシもいる。天王寺動物園。
◆ もうひとつ。テンの打ち方。
◇ 社務所に、巫女姿の娘さんが顔を出したので、聞いてみたら、白鷺と五位鷺だと答えた。樹は何の樹だと訊ねたら、あれはただの樹だ、と言って大笑いした。
◆ この「白鷺と五位鷺だと答えた」と「あれはただの樹だ、と言って大笑いした」のテンの有無。これは、自分で文章を書いていても、いつも迷う。いや、本当は適当に書いているだけなので一切迷わないが、あとで、適当なことに気がついて、いつも苦笑する。あとのほうは、実際のセリフとして書いているようなので、カギカッコを用いて、「『あれはただの樹だ』と言って大笑いした」としてもいいように思うが、「白鷺と五位鷺だと答えた」のほうは、よく読むと、微妙に間接話法っぽいような気もする。実際に「『白鷺と五位鷺だ』と答えた」のかもしれないし、実際には「あれは白鷺と五位鷺だ」と答えたのを、作者がまとめたのかもしれない。あるいは「『白鷺と五位鷺』だと答えた」かもしれない。どうせなら、こっちを問題にしてくれれば、参考になったのにと思った。もしかして、「参考になったのに、と思った」と書くべきだったろうか?