MEMORANDUM

  シラミの卵取り

◆ 先にも引用したが、ニューヨーク・タイムズの名物コラムニストだったウィリアム・サファイアが若かりし頃、メリルリンチ(Merrill Lynch)の創業者であるチャールズ・メリルに、社名の Merrill と Lynch のあいだにコンマ(,)がないのはどうしてか、とインタビューのついでに尋ねたところ、メリルはこの質問に答えたあとに、こう付け加えたそうだ。

〔William Safire, ON LANGUAGE; In Nine Little Words - New York Times〕 He also advised me not to ask silly questions about commas in a serious interview, because ''nit-picking never gets you anywhere in life.''
〔彼はまた、「重箱の隅をつついてもろくなことにはならん(シラミの卵取りは人生であなたをどこへも連れて行かない)」から、真面目なインタビューの最中にコンマの有無なんてくだらない質問はしないほうがいい、と忠告した。〕

www.nytimes.com/1989/03/26/magazine/on-language-in-nine-little-words.html

◆ 「nit-picking」の「nit」はシラミ(louse)の卵で、だから「nit-picking」は「シラミの卵を取ること」が原義。これが転用されて「あら探し」の意味にもなる。日本語の「虱潰し」と語の成り立ちは同じだが、意味は異なる。

◆ 「nit-picking」で画像検索をすると、毛づくろいをしてもらっているおサルさんの気持ちよさそうな画像がたくさん出てくる。

〔東京の野生ニホンザル観察の手引き〕 よく「ノミ取りをしている」といわれますが、一般的にはサルにノミがつくことはなく、毛についたシラミやその卵などをとっています。
www1.yel.m-net.ne.jp/j-monkey/wa-tebikisyo-1.html

◆ もちろん、シラミは人間にもつくので、たいへんな目にあった経験をお持ちの方も多いだろう(アタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミ)。さいきん丸刈りにした女性タレントがいたが、あるいはシラミ対策かもしれない。

◆ 冬にシラミを飼えば、温かくなって、暖房代が浮くかもしれない。

◇ 何でも森の説によれば、体に虱がゐると、必(かならず)ちくちく刺す。刺すからどうしても掻きたくなる。そこで、体中万遍なく刺されると、やはり体中万遍なく掻きたくなる。所が人間と云ふものはよくしたもので、痒い痒いと思つて掻いてゐる中に、自然と掻いた所が、熱を持つたやうに温くなつてくる。そこで温くなつてくれば、睡くなつて来る。睡くなつて来れば、痒いのもわからない。――かう云ふ調子で、虱さへ体に沢山ゐれば、睡(ね)つきもいいし、風もひかない。だからどうしても、虱飼ふべし、狩るべからずと云ふのである。
芥川龍之介「虱」(青空文庫

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