MEMORANDUM

  高梁

◆ いましがた、トイレで読んだ文庫本の一節。

◇ 高梁には数年前の正月にきたことがある。小さいけど本物の城が山の上に建っていて、そこへの石段を登ってゆくと雪まじりの風が渦を巻き、みるみるあたりを白くした。あの時は寒かった。町は武家屋敷や商家がほどよく残って可愛らしいが、山にかかって建ちならんだいくつかの寺院の石垣は壮大だ。寒かったが古い町の正月はしっとりした味があった。
吉田 桂二『なつかしい町並みの旅』(新潮文庫,p.154)

◆ ああ、そういえば、ワタシも小学校の高学年のころに一度だけ訪れたことがある。たかはし。当時は、城めぐりにはまっていたのだった。とはいえ、高梁の城(備中松山城)は、子どもには少々地味過ぎたようように思う。夏の盛りに汗をかきつつ山を登った覚えはあるが、山上の城自体の記憶があまりない。疲れきって城見物どころではなかったのだろう。調べると、バス停から徒歩約20分とあるので、いま考えるとたいした山登りでもなさそうだが、あるいは駅から歩いたのかもしれない。

◆ で、この続きをどう書いていいのやらよくわからないのだが、とりあえず忘れないうちに書いておくと、高梁という町は岡山県にあって、京都の子どもがひとりで行くようなところではない。いうまでもなく、親と行ったのだ。父親といっしょだった。そのあたりまえのことに思いが至ったのは、四十年たったいまがおそらくはじめてだ。そのときの旅の記憶に父の姿はほとんど出てこない。もしかすると、別行動をしていたのだろうか? なんとも薄情だが、なにも思い出せない。子どものためとはいえ、自分に関心のない城めぐりなどにどのような思いで同行していたのだろう? すこしは楽しかっただろうか? 親になった経験がないので、そのあたりの心情は察することもおぼつかないが、こんなこと書いているついでに、せっかくだから、四十年分の感謝を述べておきたい。お父さん、いろんなことをこれまでどうもありがとう。父は高齢ながら、幸いなことに、まだまだ元気だ。高梁のことなども機会があればそのうち聞いてみたい。写真もどこかにあるだろう。そもそもあの日は、ほんとうに暑かったのだろうか?

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