MEMORANDUM

  素振り

◆ エッセイストの酒井順子が、「エアセックス選手権」(正式名は「エアデート選手権」)なるものの動画を見て、エアセックス(及びエア自体)の考察をしている。

◇  見終わった後、私が最も強く感じたのは、「セックス」という行為がいかに滑稽であるか、ということなのでした。エアディープキスをしている人の、舌の動きとか。エア前戯をしている人の、指の振動の速さとか。そしてエア挿入をしている人の、腰の振りとか。真面目にやればやるほど、それらは見ている側にしみじみとした恥ずかしさを覚えさせる。コント系のエアセックスに行く人は、おそらくリアリティーを追求した時の恥ずかしさに、耐えられない人なのではないかと思われます。
 その手の行為は、リアルセックスの現場においては、誰もが行っていることです。ただ、そこにセックスの当事者ではない他人の視線が介在した途端、それらは真剣な行為から滑稽な行為に転ずる。「見るとやるとでは大違い」ではなく、「やると見るとでは大違い」なのが、セックスなのでしょう。
 何事においても、素振りという行為は、どことなく滑稽なものです。私は中学時代に卓球部に所属しておりましたが、一年生の時にイヤというほどやらされた素振りは、常に「何やってんだかなー、私」という感想を伴うものでした。おじさんがついやってしまうゴルフの素振りにしても、グリップを確認する視緑が真剣であればあるほど周囲の矢笑を買うし、相撲を一人でやろうものなら、まさに一人相撲になってしまうのです。
 スポーツですらそうなのですから、ましてセックスをや。二人でやるべきものを一人でする時の哀しみがエアセックスからは伝わってきますが、だからこそ、「セックスは二人でやってナンボ」というセックスの基本を、理解することができる。

酒井順子『ほのエロ日記』(角川文庫,pp.166-167)

◆ 素振りを出してくるあたりがおもしろい。たしかに、卓球の素振りというものには、「何やってんだかなー」感が漂う。まあ、ゴルフもそうだろう。しかし野球はどうだろうか? あれはあれで完結したもののような感じもする。なにが違うのだろう。

◆ とそう書いて、よく考えると、素振りといっても、実際のスポーツ用具(ラケット、クラブ、バット)を使用して行うものと、代用品(傘、ほうき)を使用して行うもの、あるいは、なにも用いないで文字通りエアで行うものの3種類に分類しておく必要があるかもしれない。そのうえで、卓球の場合は、ラケットを使用して行なっても素振りというものには「何やってんだかなー」感が漂うのはなぜか? ゴルフの場合は、微妙か。傘でやれば、「何やってんだかなー」感がかなり漂うだろうが、実際のクラブを持てばそうでもないような気もする。野球もそうだろう。おそらく、振り切るかどうかという動作の違いあたりが関係しているのではないかと思うが、どうだろうか。

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