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  力餅食堂

◇  京都人は、ラーメンとともに、蕎麦ではなく「おうどん」が大好物だ。それも讃岐うどんや名古屋の味噌煮込みうどんのような腰の強いものではなくて、舌でかんたんに切れるようなふにゃふにゃの「おうどん」。東京のうどんのように醤油に浸かったような濃い汁ではなくて丼の底がうっすらと見えるくらいに薄味で、「お汁」を最後まで残さずすする。これを食べようとおもえば、町中どこにでもある、たとえば「力餅食堂」という名前の庶民的なうどん屋がおすすめである。店先にはおはぎなど甘い物が並べてあり、中ではうどんと丼を出す。もちろん中華そばもかならずある。薄目醤油味のうどんと砂糖味のおはぎや饅頭という取り合わせである。こういった店で、京都ならではの「しっぽく」や「にしんそば」をいただく。「しっぽく」は湯葉に麸に椎茸にほうれん草といったあっさり系のおうどん、「にしんそば」は乾燥にしんを甘辛く煮たものを、刻みネギを散らして蕎麦と汁の上に乗せる。味からいっても色目からいっても、蕎麦は緑色の「茶そば」にかぎる。
鷲田清一『京都の平熱』(講談社,p.89)

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