◆ 野坂昭如の自伝的小説『行き暮れて雪』から。戦後まもなくの六甲ケーブル。
◇ ケーブルカーの出発駅はコンクリート造り、要塞の如く頑丈な建物。暗い構内の中央に傾斜した車体があり、これに沿って、プラットフォームも階段状、その向うに明るい山肌とレールが見える。レールの右側に狭い階段、これを掩うように、六甲山特有の、猛々しい熊笹が繁っていた。
「誰もいてはらへんのかしら」左に切符売場の窓口、正面左側に改札の柵、右が降りロ、構内は深閑と静まって暗い。ケーブルカーの仕掛けは簡単で、山頂駅にもまったく同じ一台が待機している、下の車と、ケーブルで結ばれ、上の車が降りるにつれて、下が引張り上げられる、両駅の中間で、左右にレールが分れて、すれちがい、さらに二つの車は、進みつづける。「ほな、電気みたいなんいらんのん」悠二の説明をきいて、園子がいった。
野坂昭如『行き暮れて雪』(中公文庫,p.268)
◆ 「ほな、電気みたいなんいらんのん」という園子の関西弁がなんとも魅力的だ。「電気みたいなん」はケーブルカーをつなぐ鋼索の巻き上げに使うけれども、ケーブルカー自体は自走するわけではないから、基本的に「電気みたいなん」は不要。
◇ 〔Wikipedia:ケーブルカー〕 車両は外部から引っ張って運転するので動力のための電力の供給は必要ないが、車内照明や自動ドアなどのためにバッテリーや架線、第三軌条などから電力を供給している。パンタグラフがついている車両があるのはそのためである。
ja.wikipedia.org/wiki/ケーブルカー
◆ ついでに「運転士」も不要。
◇ 〔Wikipedia:ケーブルカー〕 ケーブルカーの車両に乗務している乗務員は必ず前方に乗務している。そのうえ、乗務員がいる箇所には、一見自動車のハンドルのような円形や、クランク状のハンドルがあることも多い。このため、よく「運転士」と勘違いされるが、実際には「車掌」が前方確認のために前方に乗務しているものであり、「運転士」は山上側の駅にある運転室に詰めていて巻上機を操作している。
ja.wikipedia.org/wiki/ケーブルカー
◆ 以下、ワタシのケーブルカーの写真。
◆ 上の写真は、鞍馬寺ケーブル(2004/01/02)。
◆ 上の写真は、高尾登山ケーブル(2004/09/08)。
◆ 上の写真は、大山ケーブル(2010/11/26)。あと、箱根登山ケーブルにも乗っているはずだが(2008/05/03)、写真がないのが、残念。