MEMORANDUM

  夷灊川

◆ たわむれに「灊」で検索してみると、森鴎外が出てきた。

◇ 河は上総(かづさ)の夷灊川(いしみがは)である。海は太平洋である。
森鴎外『妄想』(青空文庫

◆ そういえば、大多喜を流れていたのも夷灊(隅)川だった。

〔Wikipedia〕 清澄山系の東方の勝浦市上植野に源を発し、数多くの渓流をあわせ複雑に蛇行しながら北流した後、大多喜町付近でその流れを東折し、いすみ市岬町和泉で太平洋に注ぐ。
ja.wikipedia.org/wiki/夷隅川

◆ たまたま見つけた森鴎外の文章、せっかくだから、全部読んだ。自伝的回想を軸にした短編。鴎外とおぼしき「白髪の主人」が別荘近くの海辺を散歩している。じっさい鴎外は夷隅川が外房の海に注ぐ河口近く、夷隅郡東海村字日在(ひあり)(現在のいすみ市日在)に鴎荘という名の別荘を持っていたそうで、散歩から戻った「主人」は、別荘の居間で、

◇ 自分がまだ二十代で、全く処女のやうな官能を以て、外界のあらゆる出来事に反応して、内には嘗(かつ)て挫折したことのない力を蓄へてゐた時の事であつた。自分は伯林(ベルリン)にゐた。

◆ と、留学時代の回想にふけり始める。回想といっても、こむずかしい哲学的なハナシが続くので、ワタシにはあまりおもしろくはない。だいぶとばして、留学から帰朝する場面。

◇ シベリア鉄道はまだ全通してゐなかつたので、印度(インド)洋を経て帰るのであつた。一日行程の道を往復しても、往きは長く、復(かへ)りは短く思はれるものであるが、四五十日の旅行をしても、さういふ感じがある。未知の世界へ希望を懐(いだ)いて旅立つた昔に比べて寂しく又早く思はれた航海中、籐の寝椅子に身を横へながら、自分は行李にどんなお土産を持つて帰るかといふことを考へた。
〔中略〕
 自分は錫蘭(セイロン)で、赤い格子縞の布を、頭と腰とに巻き附けた男に、美しい、青い翼の鳥を買はせられた。籠を提(さ)げて舟に帰ると、フランス舟の乗組貝〔ママ〕が妙な手附きをして、「Il ne vivra pas !」と云つた。美しい、青い鳥は、果して舟の横浜に着くまでに死んでしまつた。それも果敢(はか)ない土産であつた。

◆ 航海の途中、寄港したスリランカ(セイロン)でつい買ってしまった「青い鳥」。船に戻ると、そのカゴの鳥を見た船員からフランス語で声をかけられる。「Il ne vivra pas !」(その鳥はじきに死ぬよ)。すでにだいぶ弱っているのを売りつけられたのだろうか。

◆ ちなみに、鴎外が出帆したのは、フランスのマルセイユ。写真は鴎外となんの関係もない。ただ、「マルセーユ」に「ラメール(海)」というつながりが気にいったもので。それにしても、麻雀屋のネーミングというのはいったいどうなっているんだろう。なんとも不思議だ。

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