MEMORANDUM

  未来通り

◆ 図書館で、『東京人』という月刊誌の9月号をパラパラめくっていると、フランス文学者で芥川賞作家の堀江敏幸が書いた「世田谷線の踏切をめぐる冒険。」というページが目にとまったので、読んでみた。「全長五キロの東急世田谷線の、下高井戸駅から三軒茶屋駅までにあるすべての踏切を渡る」という企画であるらしい。

◇ 十三時二十五分、その「松原四号」を渡って、上り線路沿いに歩き始める。未来通りと名付けられた将来性の高い通りのコンクリートの柵には、なぜか梅酒の瓶を利用した簡易吸い殻入れがくくりつけられ、濃いコールタールの色をガラス越しに光らせている。線路際には美しいピンクの芙蓉が咲き乱れ、蜜を求めてモンシロチョウが舞い、茎には二星てんとうやカタツムリが張り付いて人口のなかの自然をみごとに演出してくれていたのだが、柵にはまた《眼アポで出会い、裏技でキメる》といういかがわしい張り紙もあって、その惹句にやられたのだろう、鮮やかな緑をまとったカマキリが、切ない出会いを求めてうろついていた。
堀江敏幸「世田谷線の踏切をめぐる冒険。」(『東京人』2009年9月号,p.51)

◆ ワタシもここを歩いたことがある。下高井戸駅そばのこの踏切が「松原四号」で(左)、線路沿いの道には「未来通り」とあり(中)、してみると、このしおれた花は芙蓉だったのだろう(右)。もしかしたら、ちがうかもしれない。作者は松原四号踏切から「上り線路沿い」に歩いたとあるが、ワタシの歩いたのはたしか「下り線路沿い」。「未来通り」とは線路沿い左右ふたつの道の両方をさすのだろうか。まあ、そんな細かいことはどうでもよくて、ほんとうは「二星てんとう」というコトバが気にかかって、そのことを書こうとしていたのだが、すでに、いつものように、回り道をしてしまっているようだ。ここは、誰が名つけたか「未来通り」。

♪ 君を忘れない 曲がりくねった道を行く
  きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる

  スピッツ 「チェリー」(作詞:草野正宗)

◆ 今年もあと2週間あまり。無事に年が越せるとよいが、鉄道ではあちこちで「人身事故」のアナウンス。ちんちん電車の世田谷線に飛び込むひとはまれだとは思うけれども。

◆ そういえば、昨日の朝、バスの車内で聞いたこんな会話。「私の実家には、伊予鉄道ってのが走ってるんだけど、これがほんとに遅くて、事故があってもすぐに止まれるくらい」。松山か。

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