MEMORANDUM

  朝、トイレで文庫本を

◆ 朝、手近な文庫本を適当に手にとって、トイレに入る(わがボロアパートのは和式で便所というべきか?)。それで、いましがた、ちくま文庫の『太宰治全集』のなかの「千代女」を数ページ読んだ。

◇ 十二の時に、柏木の叔父さんが、私の綴方を「青い鳥」に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいに褒めて下さって、それから私は、駄目になりました。あの時の綴方は、恥ずかしい。あんなのが、本当に、いいのでしょうか。どこが、いったい、よかったのでしょう。「お使い」という題の綴方でしたけれど、私がお父さんのお使いで、バットを買いに行った時の、ほんのちょっとした事を書いたのでした。煙草屋のおばさんから、バットを五つ受取って、緑のいろばかりで淋しいから、一つお返しして、朱色の箱の煙草と換えてもらったら、お金が足りなくなって困った。おばさんが笑って、あとでまた、と言って下さったので嬉しかった。緑の箱の上に、朱色の箱を一つ重ねて、手のひらに載せると、桜草のように綺麗なので、私は胸がどきどきして、とても歩きにくかった、というような事を書いたのでしたが、何だか、あまり子供っぽく、甘えすぎていますから、私は、いま考えると、いらいらします。
太宰治 『千代女』(青空文庫

◆ 柏木、煙草屋のおばさん、バット、桜草。それぞれに書きたいことが見つかって、

♪ 何から伝えればいいのか わからないまま時は流れて
  浮かんでは消えて行く ありふれた言葉だけ

  小田和正 「ラブ・ストーリーは突然に」(作詞:小田和正)

◆ これで今日一日、あれこれ考えて、たのしく過ごせることだろう。とりあえず、バットでも買ってみようか。

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