MEMORANDUM

  蘭軒の猫

◆ 森鴎外『伊沢蘭軒』より、蘭軒の愛猫トキの逸話。

◇  伊沢分家の口碑に伝ふる所の猫の事は、聴くがままに記すれば下(しも)の如くである。
 蘭軒の愛蓄する所の猫があつた。毛色が白に紅(くれなゐ)を帯びてゐた。所謂桃花鳥(とき)色である。それゆゑ名を桃花猫(とき)と命じた。
 或時蘭軒が病んで久しきに瀰(わた)つたので、諸家の寄する所の見舞物が枕頭に堆積せられた。蘭軒は褥中にあつて猫の頭(かうべ)を撫でつつ云つた。「余所(よそ)からはこんなにお見舞が来るに、ときは何もくれぬか。」
 少焉(しばらく)して猫は一尾の比目魚(かれひ)を銜(くは)へて来て、蘭軒の臥所(ふしど)の傍(かたはら)に置いた。
 忽ち厨(くりや)の方(かた)に人の罵り噪(さわ)ぐ声が聞えた。程近き街の魚屋(うをや)が猫に魚を偸(ぬす)まれて勝手口に来て女中に訴へてゐるのであつた。
 蘭軒は魚(うを)の価を償うた。そして猫に謂つた。「人の家の物を取つて来てはいけぬ。」
 次の日に猫は雉を捕へて来た。蘭軒の屋(いへ)の後には仮山(つきやま)があつて草木が茂つてゐた。雉はをり/\そこへ来ることがあつたのを、猫が覗つてゐて捕へたのである。
 魚を偸んだと雉を捕へたとの二つの事が相踵(あひつ)いで起つたので、家人は猫が人語を解すると以為(おも)つた。是より猫は家人の畏れ憚る所となつた。

森鴎外 『伊沢蘭軒』(青空文庫

◆ 「人語を解する」猫については、以前「ネコのお土産」という記事を書いたときに参照した「猫ちゃんが捕まえてきてビックリした生き物は何ですか?」(《発言小町》)にも、似たような話がいろいろ出てくる。

◇ 昭和40年代前半、広いお庭に大きな池のある田舎の家に住んでいました。池には立派な金魚がいっぱい。人影が映ると、エサが貰えると思って岸に寄ってくるほど馴れていました。その金魚をノラちゃんがツメで引っかけて持って行っちゃう。そこで、母が「金魚を捕らないで、ネズミでも捕ればいいのに。」とひとり言。翌朝、縁側から庭に下りる踏み石の上に、ネズミの頭とシッポだけがきれいに並べて置いてあったそうです。(もちろん実話です。)
komachi.yomiuri.co.jp/t/2008/0825/200478.htm

◇ 昔、近所の野良にえさをあげたら、その子が毎日うちの玄関にねずみの死骸を置くようになりました。ただでさえねずみが苦手な母は、毎朝玄関を開ける度「ぎゃーー!!」 母はこんこんと「もうお礼はいいから。持って来たら餌あげないよ!」と説教。翌日からは持ってこなくなりました。
Ibid.

◇ うちの猫たちは、1匹が敏捷で、よくねずみやら鳥やらを捕まえてきます。もう1匹は、デブ猫なので?捕まえてきたことはなかったのですが、ある時、敏捷な猫の方が捕まえて遊び飽きて放置したねずみを、デブ猫がくわえて見せに来たことがあります。しかも、得意げに「とってきたよー!」という感じで。いや、おまえじゃないだろ!と思わず笑ってしまいました。あと、敏捷な子に「最近とってこないねー」と言ったら、それから1週間連続で私の枕元に獲物を供えてくれました!!
Ibid.

◆ こういうハナシは読んでいて飽きない。

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