MEMORANDUM

  山椒あれこれ

◆ サンショウウオで山椒が気になって、《青空文庫全文検索》で、「山椒」を検索してみた。以下はその結果の一部。読書というにはほど遠いかもしれないが、ワタシはこういう断片の文章を読むのが、ことのほか好きなもので。

◆ まず、薄田泣菫(すすきだきゅうきん)の人間的な山椒の木。

◇ 勝手口にある山椒の若芽が、この頃の暖気で、めっきり寸を伸ばした。枝に手をかけて軽くゆすぶって見ると、この木特有の強い匂が、ぷんぷんとあたりに散らばった。/ 何という塩っぱい、鼻を刺すような匂だろう。春になると、そこらの草や木が、われがちに太陽の光を飽飲して、町娘のように派手で、贅沢な色で、花のおめかしをし合っているなかに、自分のみは、黄色な紙の切屑のようにじみな、細々した花で辛抱しなければならず、それがためには、大気の明るい植込みのなかに出ることも出来ないで、うすら寒い勝手口に立っていなければならない山椒の樹は、何をおいても葉で自らを償い、自らを現すより外には仕方がなかった。そして葉は思いきり匂を撒き散らしているのだ。
薄田泣菫 『艸木虫魚』(青空文庫

◆ 『丹下左膳』から2件。「おどろき桃の木山椒の木」に「山椒は小粒でもピリッとからい」。江戸っ子だ。

◇ 「エエ町内のお方々、おさわがせ申してあいすいません。火事は遠うごぜえます。葛西領は渋江むら、渋江村……剣術大名司馬様の御寮――」
 番太郎が拍子木を打って、この尺取り横町へはいってくる。
「チェッ! 火事は渋江村、ときやがら。こちとら小石川麻布は江戸じゃアねえと思っているんだ。しぶえ村とはおどろいたネ。おどろき桃の木山椒の木……」
 さっき火事を見に出た隣近処の連中がガヤガヤいって帰ってくる。

林不忘 『丹下左膳 こけ猿の巻』(青空文庫)

◇ 「なんのお前様、唐人の化けの皮を一目で引ん剥いだ、御眼力、お若えが恐れ入谷の鬼子母神……へっへっへっなんでごわす? ま、そのお話てえのをザッと伺おうじゃアげえせんか、あっしもこれで甲州無宿山椒の豆太郎――山椒は小粒でもピリッとからいや。ねえ、事の仔細を聞いたうえでサ、案外乗り気に一肩入れるかも知れませんぜ」
林不忘 『丹下左膳 乾雲坤竜の巻』(青空文庫

◆ 岡本綺堂の『半七捕物帳』から。酒のつまみ。

◇ 半七は礼を云って表へ出ると、路の上はすっかり暗くなって、遠い辻番の蝋燭の灯が薄紅くにじみ出していた。藤屋という酒屋を探しあてて、表から店口を覗いてみると、小皿の山椒をつまみながら桝酒を旨そうに引っかけている一人の若い中間風の男があった。
岡本綺堂 『半七捕物帳 朝顔屋敷』(青空文庫

◆ 和菓子「切山椒」2件。

◇ 楊庵は肥胖漢(ひはんかん)で、其大食は師友を驚かしたものである。渋江抽斎は楊庵の来る毎に、例(いつ)も三百文の切山椒を饗した。三百文の切山椒は飯櫃の蓋に盛り上げる程あつたさうである。
森鴎外 『伊沢蘭軒』(青空文庫

◇ 大丸のまむこうに、大丸出入りの菓子や「かめや」あり、旅籠町通りに大丸とならんで大丸の糸店と扇店があり、「みすや針店」のとなりが森田清翁という、これも出入りの菓子や。十月十九日べったら市の日には店へ青竹にて手すりを拵(こし)らえ、客をはかって紅白の切山椒を売りはじめます。たいした景気、極々よき風味なり。向側の「かめや」にても十九日にはやはり青竹にて手すりをこしらえ、柏餅をその日ばかり売ります。
長谷川時雨 『大丸呉服店』(青空文庫

◆ 切山椒といえば、「べったら市」と並んで11月の「酉の市」が有名。ほんとは、この切山椒についての記事を書こうと思ったのだが、よく考えてみれば、数年前の酉の市で一度食べたきりなので(味も忘れてしまった)、特に書くことが見つからないのだった。どんな菓子かとお思いの方は、「切山椒」で検索すれば、おいしそうな画像を添えたサイトがいろいろ見つかることでしょう。

関連記事:

このページの URL : 
Trackback URL : 

POST A COMMENT




ログイン情報を記憶しますか?

(スタイル用のHTMLタグが使えます)