MEMORANDUM

  墓穴を掘る

◆ クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』。その冒頭近くのシーン。米軍の上陸に備えて、海岸線に塹壕を掘っている兵士たち。そのうちのひとりである西郷(二宮和也)が、妻への手紙の文面を朗読するかたちで、つぶやいた台詞「墓穴を掘る」についてのちょっとした疑問。《Yahoo!知恵袋》にこんな質問。

◇ 『硫黄島からの手紙』を観てきました。そこでひとつ質問なんですが、二宮が初めて登場するシーンで妻・花子に語りかけると思うのですが、「花子…、俺たちは掘っている。そこで戦い、そこで死ぬ穴を。○○○掘ってんのかな」というセリフがありますが、○○○は何といったのでしょうか? 「オケツ」と聞こえたような気がするのですが、お尻のことですか??? なぜお尻???
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1310287113

◆ こんな回答。

◇ 「墓穴(ボケツ)」って言ってましたよ。「墓穴を掘る」っていう慣用句と、「戦場で死ぬかもしれない場で穴を掘っている事実」とを掛け合わせたのです。
Ibid.

◆ この回答を読んで、「?」と思った。たしかに土葬の習慣のない今では、「ボケツと掘る」という表現はもはやほとんど比喩的な意味でしか使用されなくなってはいるが、この場面で、この「墓穴を掘る」という表現が、自らがそこで死に埋葬されることになる墓穴(はかあな)を掘るという本来的な意味以外に、慣用句としての「ボケツと掘る」のニュアンスが掛け合わされているとはとても思えない。ワタシはそう思ったのだが、「墓穴を掘る」という表現にたいする以下の数々のコメントを読むにつけ、自信がなくなってくる。

◇ 西郷が冒頭で言う「…墓穴掘ってるのかな」という言葉。穴を掘るという事と絡ませて粋な台詞です。これが英語などにどう生かしていくのか、そちらの方も気になります。
tossa.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_bc70.html

◇ 「オレら何掘っているんだろうな。」と隣の兵士が聞くと、「墓穴掘ってるのかもな。」みたいな会話がある。うまいジョークだなあとつい感心してしまったが、ボケツだったのか墓穴だったのかは誰にもわからない。
blog.goo.ne.jp/anndarusia2000/e/222689154bfcbc2181277c1a20d57dd3

◇『墓穴を掘る』なんていうしゃれもね、日本人でこの当時でこんなこと思いつけるやついたのかなあと。今の日本でも、かなりめだつかな。
plaza.rakuten.co.jp/futsupa/diary/200612160000/

◇ 「ハナコ、今俺たちは穴を掘っている。」 「墓穴(ボケツ)ってやつかな。」(←ちょっと切ないダジャレ、涙。)
ninosakuranbo.jugem.jp/?eid=1244

◇「墓穴」などという熟語も駆使されていることから、日本語へのアダプテーションも問題ないのだろうと思いきや、二宮扮する日本兵のキャラクターがどうにもアメリカ臭い。
www.flowerwild.net/2007/01/2007-01-22_125856.php

◇ 日本独特の言い回しもいいのではないでしょうか。英語字幕だと殺風景ですが。「墓穴を掘る」ってそのまま英訳しても意味はわからないでしょうね。
blog.goo.ne.jp/hanaken0518/e/93cb0b52d0f9f7fb4ffacaca517676b8

◆ はたして、ここでの「墓穴を掘る」というコトバが、「絡ませて粋な台詞」だったり、「ジョーク」だったり、「しゃれ」だったり、「ダジャレ」だったり、「熟語」だったり、「日本独特の言い回し」だったり、するものだろうか?

◇ 冒頭でのシーン。前線で塹壕を掘りながら「俺達、墓穴掘ってるのかなぁ。」 本来「いやぁ、墓穴掘っちゃってさぁ」なんて、軽く使えるような言葉ではないはず。
blogs.yahoo.co.jp/waontrinity/archive/2007/01/03

◇ 砂浜で塹壕を掘っている二宮和也が「俺たち、墓穴を掘っているのかな」というセリフはもはや脚本がもとから日本語で書かれたものだと錯覚させる。
www.up-edu.com/kenshinkan-jr-blog/2007/01/_de_12_letters_from_iwo_jima20.html

◇ 最初の方のシーンで、ある日本兵が海岸で戦闘用の穴を掘りながら、『墓穴を掘ってるみたいだな』とポツリ。まさに言葉通り。今まで、“墓穴を掘る” の意味は知っていたが、その漢字まで考えたことはなかった。何でこんな言葉が生まれたのだろう?
d.hatena.ne.jp/Nampei/20070106

◇ 「俺たちは掘っている。・・・墓穴掘ってんのかな」という二宮和也の印象的なセリフ、これって英語ではなんていうのかな…? こういう日本語のおもしろさがアメリカ映画で見られたというのはちょっとした衝撃です。
www.snow-sugar.jp/2007/01/post_23.html

◇ 冒頭の二宮くんの語り・・・「 花子・・・。俺たちは掘っている。自分たちが入る穴を・・・墓穴(ぼけつ)掘ってるのかな・・・。 」という日本にいる妻に宛てた手紙の日本人でしか持ち得ないメンタリティの細部まで、描いた脚本に驚いた。
worldofpp1.exblog.jp/6203157/

◆ 「ボケツ」と発音されたコトバは、いまでは多くのひとにとって、「墓穴(はかあな)」という具体的なものをイメージさせる力はほとんどなくなっており、もっぱら「ボケツを掘る」という抽象化された慣用表現を連想させるものであるらしい。「オケツ」と聞き違えるひともいるようでは、「ボケツを掘る」という言い回しは、無用なイメージの拡散を防ぐためにも、「ハカアナを掘る」と発音されるべきだったかもしれない。

◇ 日本語の台詞も割とちゃんと出来てたし。でも墓穴「ぼけつ」はウソでも「はかあな」にして欲しかったかなぁ。………(←) いや、あってるんですけど、でも。
heavenly.heavensflower.babyblue.jp/?eid=449792

◇ 砂浜にざん壕を掘る若い兵士西郷(二宮和也)がボヤきます。「俺、墓穴(ぼけつ)、掘ってるんだろうか?」 のっけからジャブをくらったようで、ぐぐっときました。ここでは墓穴(はかあな)のほうがいいんじゃないかなぁ思いつつも、これからどこまで心臓をえぐってくれるのだろうかと、身構えました。
www.doblog.com/weblog/myblog/10668/2623090#2623090

◆ 「ボケツ」と「ハカアナ」は同じものだというのが辞書的定義であっても、現実の語感においては、「ボケツ」と「ハカアナ」とではいちじるしく異なるものであるらしい。

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