MEMORANDUM

  糊を炊く

◆ ワタシのとなりのおっちゃんは、若いときに、詩を書いていたそうな。以下、岩本敏男の 「三月」 と題された詩の全文。昭和30年。

 ぼくの一白水星の
 三月の凶運を
 「眉毛に火のつくような苦痛の月」 と
 かあさん
 鼻をすすって
 暦によむのはよしなさい
 マッチ箱に貼りつける
 ラッキー印のレッテルがゆがみます
 ぼくたち 一日何千枚かこれを貼って
 末日までに拇印を押して
 市民税の誓約書と
 とりかえなければならない

 かあさん
 糊をたいてください

◆ 友人には 「まるで貧しいことが正義みたいな詩だな」 と評されたらしい。なるほど、そんなふうな詩でもあるようだが・・・。詩そのものの批評はさておいて、最後の二行 「かあさん / 糊をたいてください」 の意味がわかるかどうか。

◆ 「炊く」 といえば、ごはん。だが、関西では、その対象がやや広い。

◇ 私は現在、京都に住んでいますが、コンビニのお惣菜などでも 「おあげと水菜の炊いたん」 とかがあったりして、普通に 「煮る」 ことを 「炊く」 って言いますね。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=129940402

◇ 大根を炊くときに、最初にとぎ汁でさっと下ゆでをしておくと、大根の苦みがとれます。
www.kyt-ysc.co.jp/olchie/riyou/syoku.htm

◆ 関西では、大根も炊くし、糊(のり)も炊く。糊を炊く(煮る)といえば、「舌切り雀」 のおばあさん。以下は、その近江の高島ヴァージョン(《民話でたどる滋賀の風景》 より)。

◇ 「おじい、おじい、きょうはどうするの」
て、おばあさんがいうたんやて。
ほしたら、おじいさんは、
「どうするて、山へ炭焼きに行くんよ」
おばあさんは、
「ほんなら、わしはせんたくして、のりつけしよう」
おじいさんは、山へ行くし、
おばあさんは、のりつけののりをたいといて、せんたくに行ったんやて。

www.pref.shiga.jp/minwa/51/51-movie.html

◆ この糊の原料は何か? いまでは化学糊というのもあるけれど、

◇ 昔々、お婆さんが障子紙の張替えの為に用意した白ボンドを、スズメは毒と見破り近付こうともしませんでした・・・。これでは舌切り雀のお話は成立しません。
homepage3.nifty.com/sparrows/med-dm06.html

◆ 化学糊ではお話にならない。といって、天然の糊ならなんでもいいわけでもない。デンプン(澱粉、Starch)を含んでいれば、トウモロコシ(コーンスターチ)、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ、小麦など、なんでも糊にできるけれど、「舌切り雀」 のお話では、雀の好物の米から糊を作るのでなければ、それこそお話にならない。

◇ そういえば幼い頃おばあちゃんが障子貼り用の糊を煮るのを、目を丸くして眺めていたっけ。「おばあちゃん。糊はお米からできるの?」 と聞くと 「そうだよ。昔は家で使う糊はみんな自分で作ったんだよ」 と教えてくれて・・・。
www.ne.jp/asahi/mon/know/COLUMN/bkup13.html

◆ では、マッチ箱のラベルを貼るのに適した糊の原料は何だったろう?

 かあさん
 糊をたいてください

◆ 「かあさん」 が炊いたのは、小麦粉だったろうか? よくわからない。

◆ 以下、おまけ。「炊く」 と 「煮る」 のハナシに戻って、炊飯器クッキング。

◇ 炊飯器で大根を炊くと、本当に美味しいのです。鶏肉を炊くと、これまたほろほろ美味しく煮上がるのです。ということで、手羽先と大根を一緒に炊きました。ほーら、コラーゲンたっぷりのつやつやの煮物が炊けましたよ。
allabout.co.jp/gourmet/cookingabc/closeup/CU20051113A/index.htm

◆ この文章の 「炊く」 は、ちょっと微妙。炊飯器で調理するから 「炊く」 と言っているのか(炊飯器で 「煮る」 とは言いにくいか?)、作者が関西人だから 「炊く」 と言っているのか、よくわからない。「煮物が炊け」 るというのも、ちょっと変?

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