MEMORANDUM

  盥を回す

◆ 野中広務は33歳で園部町長に当選すると、町民には不便きわまりない役所特有の縦割り組織の弊害を改善しようとして、役場の玄関につぎのような掲示をさせた。

◇ 窓口には仕事のもちばに違いはありません。何でも相談に応じます。
窓口と相談係には聞き捨てにするクズかごはありません。
窓口と相談係にはくさいものにするふたはありません。
窓口と相談係にはたらいまわしにするたらいはありません。
町行政上の疑問は何でも遠慮なく相談係にたずねてください。

魚住昭 『野中広務 差別と権力』 (講談社文庫,p.98)

◆ 役所とたらいまわしは、いまもむかしも、切っても切れない関係だろうと思うけれども、それとは別に、「たらいまわし」 という慣用語を使うときに、現実の 「たらい」 のイメージが脳裏に浮かぶひとはどれぐらいいるだろうか?(ほとんどいないだろう。盥製造業者くらいだろうか?) さらに、アタマのなかで、たらいがぐるぐるまわって目を回してしまうようなひとは?(さらに、ほとんどいないだろう) いないだろうけれど、こういうことを想像するのは楽しい。想像しているあいだに目がぐるぐる回ってくる。(それは酒のせいでもあるが) 

◆ で、ワタシが目を回した 「たらいまわし」 のイメージは、曲芸の皿回しのように、盥自体がぐるぐる回っているといった状況で、よく考えると、これでは、「たらいまわし」の意味をなさない。では、「たらいまわし」 とはいったい何なのか?

◇ 本来は、仰向けに寝て足で盥を回しながら受け渡す曲芸のことであったが、回る盥の方はちがっても、それを回す方の足は変わらずに同じであるところから、馴れ合いで順番に回す意になったものと考えられる。歌舞伎 『伊勢平氏栄花暦』 に、「嫌だ、盥回しめ、無くなりゃあがれ」 という例が見える。
山口佳紀編 『暮らしのことば語源辞典』 (講談社,p.414)

◆ なるほど。でもいまひとつイメージがつかめない。仰向けに寝ている人は何人くらいいて、どのような隊形になっているのか。大人数で円形に寝て盥を回すのだろうか? とにかく、盥自体も回っていることは間違いない。それに加えて、さらにその回っている盥が人の足から足へと回っていくということなのだろう。地球が自転しつつ、太陽のまわりを公転しているようなものだろうか? 盥を回すのもたいへんなことなのだろう。

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