◆ 『東電OL殺人事件』 の著者である佐野眞一が、この事件に関心をもった理由をこう語っている。 ◇ なぜこの事件に関心をもったかとのお尋ねですが、少し難しくいえば、ありとあらゆる出来事が瞬時のうちに忘れ去られ、過去にとりこまれてしまういまという時代の異常な風潮に、私なりに抵抗したかったからです。すべてがあわただしく過ぎ去るという意味のドッグイヤーという言葉がありますが、この事件の発端から現在までを考えると、その意味がよくわかります。 ◆ ワタシはこの文章で、はじめてドッグイヤーというコトバを知った。 ◇ ドッグイヤー 【dog year】 情報技術分野における革新のスピードを表す概念。通常7年で変化するような出来事が1年で変化すると考える。〔人間の7年が犬の1年に相当することから〕 ◆ 犬の年にならえば、「十年ひと昔」 というコトバも 「一年二年ひと昔」 と言い直す必要があるだろう。 ◆ ドッグイヤーというコトバでワタシが思い出すのは、カミュの 『異邦人』 に出てくるサラマノという老人とその飼い犬のハナシ。 ◇ 暗い階段を登りながら、同じ階の隣人、サラマノ老人とゆき会った。彼は犬と一緒に住んでいる。八年前から犬と一緒にいる。そのスパニエル犬は、(赤むけだと思うが、)皮膚病にかかり、そのためすっかり毛が抜けて、はげと褐色の瘡蓋(かさぶた)だらけなのだ。この犬と一緒に、狭い部屋に二人きりで生活したため、サラマノ老人はついに犬に似てきた。 ◇ 女房が死ぬと、ひとりぼっちになった気がした。そこで、犬を一匹工場の仲間に頼み込み、ほんの子犬のうちに、あれを引きとった。はじめはミルクで育てなければならなかった。ところが、犬の寿命は人間より短いから、ふたりは一緒に老いぼれることになった。 |
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