MEMORANDUM

  木のように作ってある木

◆ 種村季弘と田村隆一の対談から。

種村 [……] 台所なんかによくあるやつ。木の皮みたいなビニールをぺたっと張っつけてあるやつ。あれはちょっとはじが破れれば全部ひっぺがして、張りかえなきゃならない。つまり一挙に廃物化はするけれども、古くなることができない。モデルチェンジってのは結局前のヤツをいきなり廃物化しちゃうんだからものすごい。ツヤぶきんかけたり、ヌカ袋使ったりしてね、物と人間との間に時間が流れてはじめて物や環境が古くなって愛着が出てくる。家具調度から環境いっさいがいつも仕立ておろしの新品ずくめってのはやりきれない。昔の冷蔵庫なんかは木でできていた。このごろは全部変なペンキのようなやつでね。
田村 ペンキならまだ許せるんだよ。木のようにつくってある冷蔵庫は許せないな。

種村季弘 『東京迷宮考 種村季弘対談集』(青土社, p.94, 初出: 1973)

◆ 木のようにつくってある冷蔵庫、は許せない。といっても、最近ではそんな冷蔵庫はとんと見ない。木のようにつくってあるテレビも見なくなった。許せないのは、木のように作ってある木。そそっかしいキツツキが間違えたらたいへんだ。コンクリートはコンクリートのままでいい。

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