◇ "Ich weiß, daß ich nichts weiß." - Socrates ◆ ワタシはドイツ語についてはなにも知りはしないが、これがドイツ語であることは知っている。というのも、文中に 「ß」 があるからで、 ◇ このギリシア文字のベータみたいなのは、エスツェットというんだ。エスツェットはもともとはエス(s)とツェット(z)がくっついてできた文字 なんだけど、現代ドイツ語では ss と同じだと考えていいんだ。だから、タイプライターやメールなどでエスツェットの文字が出せないときは ss で代用することもあるんだよ。なおエスツェットは小文字しか存在しないから、大文字で書く必要があれば、SS を使うんだ。 ◆ このエスツェットがあれば、意味はわからなくても、それがドイツ語であることだけはわかるというわけ。 ◇ エスツェットを書くと 「ああ,ドイツ語を勉強しているな」 と自己満足に浸る(?)ことができます。しかし1998年からのドイツ語正書法改正でエスツェットの役割は減少しました。 ◆ 「ドイツ語正書法改正」 について知ったのは数日前のこと。1月28日、立川市錦町のとあるマンションのごみ置き場に捨ててあった『エクセル独和辞典』(郁文堂)を持ち帰って、ぼんやり眺めていると、帯に 「新正書法完全対応」 とあった。 ◇ 1998円8月にドイツ語の新しい正書法が施行されました。従来の正書法は、今後とも誤りとはみなされませんが、2005年までの移行期間を経た後、廃止されます。 ◆ この新正書法によって、従来の書き方とはなにが変わるのかというと、たとえば、 ◇ 同じ発音でも違う文字を使うということはドイツ語でもしばしば起こることです。この文字の使い方に関する変更はたくさんあるのですが、私たちにもっとも身近なものは ss と ß の問題です。 // これまで [s] の音は基本的には ß でつづられ、母音にはさまれて前の母音が短い場合のみ ss でつづるという面倒なものでした。ですから、müssen という助動詞は主語が ich の時には後ろの母音がなくなるので muß とつづらなければなりませんでした。逆に、Fluß の複数形は Flüsse というように書き換えなければなりませんでした。 // 新しい規則では、長い母音、二重母音の後の ß 以外はやめようということになりました。そうすると、müssen のような場合、変化して後ろに母音がなくなったからと言って、muß と書く必要がなくなりました。また、これまでの Fluß は Fluss と最初から書かれるようになったわけです。そうすると、おなじみの接続詞daßもdassとつづられることになります。 // いいことだらけみたいですが、そうでもありません。この規則でも相変わらず、wissen は主語が ich や er のときは二重母音に変わるので weiß とつづらなければなりません。また、Straße, Maße のような語にも ß は残ります。 ◆ というわけで、冒頭のソクラテスの「わたしはわたしが知らないということを知っている」という一文は、新正書法にしたがって、今後はこう書かれることになる・・・ ◇ "Ich weiß, dass ich nichts weiß." - Socrates ◆ ・・・はずだが、ことはそう簡単には運んではいないようで、 ◇ ノーベル文学賞受賞者ギュンター・グラスは一歩進んで、自分の文章が新正書法に沿って教科書に公表されることを拒否している。マルティン・ヴァルザーも 「これからも自分の思い通りに(旧正書法に従って)書く」 と主張。正書法改革を 「官僚の暇つぶし」 と呼んでいる。 ◇ 正書法改革法(Rechtschreibreform)がドイツ国内で一律に発効する見通しがなくなった。 // 改革法に基づいて新正書法が始まるまであと2週間となったが、バイエルン州とノルトライン・ヴェストファーレン州は、各州首相会議(Ministerpräsidentenkonferenz)の決定を無視する形で、新正書法の導入はしないとの声明を出し、関係筋を驚かせた。 ◆ などなど、前途は多難な様子。 |
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はるか昔。ドイツ語を少々かじりましたが……。
アルファベットの発音すら怪しくなりました。
ウムラウトを添える綴りを書くと、
なんとなく、それっぽい気がしたことを思い出しました。
結局……、単位取らなかったんだったな。
良い教授だった(はず・な)のに。勿体ないことをした……。
皐月さん、
ドイツ語、かじりましたか。
ワタシはフランス語をかじったんですが、
日本の店の看板やなんかで、
フランス語のアクセント記号は、
たいてい間違ってますね。
(Café の é が e’や è になってたり)
たいへん気になります。