◆ 近ごろ観た映画のなかでは、『誰も知らない』 (監督:是枝裕和) が断然よかった。長男役の柳楽優弥がカンヌで最優秀男優賞を受賞したことで話題になった映画である。
◇ トラックからアパートに荷物が運び込まれてゆく。引っ越してきたのは母けい子(YOU)と明(柳楽優弥)、京子(北浦愛)、茂(木村飛影)、ゆき(清水萌々子)の4人の子供たち。だが、大家には父親が海外赴任中のため母と長男だけの二人暮らしだと嘘をついている。母子家庭で4人も子供がいると知られれば、またこの家も追い出されかねないからだ。その夜の食卓で母は子供たちに「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」という新しい家でのルールを言い聞かせた。
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◆ 冒頭の引越のシーンでは、「おいおいそこの引越屋のふたり、そんな軽いもん、ひとりで持てよ」 と思いもしたが、それは大目に見るとして、いちばん印象に残っているのは、長女の京子が、ベランダで洗濯をしているシーン。人目につくのを恐れて、部屋の外には出てはいけないというルールが決められたが、どんなルールにも例外はあるもので、洗濯係の京子だけはベランダに出てもいいことになった。洗濯機がベランダにあるのではこの例外もしようがない。洗濯機は全自動なので、ずっとそばについている必要はないのだけれど、京子はずっと洗濯機を見ている。それが洗濯係に与えられた役目であるかのように、ずっと洗濯機を見ている。彼女にとっては、洗濯機をじっと見ていることが洗濯そのものであるかのようだ。脱水が終わったら、すぐに取り込めるようにその場で待っている。洗濯物を洗濯機に放り込んだら、あとはマンガでも読んで、あるいはテレビでも見て、そのうち洗濯していることも忘れてしまって、洗濯機が仕事を終了したのちずいぶん経ってから、洗濯していたことをふと思い出して洗濯物をあわてて取り込む、そんなのはずぼらなオトナのすることで、彼女にはまったく縁がない。彼女は洗濯機とともに洗濯をしている。全自動洗濯機だから、ただ洗濯機をじっと見ていることしかできなくても、それが洗濯という仕事だと彼女は思っている。もし、これが全自動洗濯機でなければ、さらに洗濯が楽しくなっていたかもしれない。せめて洗濯機のなかが見えれば・・・
◇ 洗濯機が稼動している時の渦巻きを見るのが好きなんですよ。それもあって、二層式が好きなんでしょうね。
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◆ ワタシもこどものころ、二層式の洗濯機の渦を飽かずに見ていたような気がする。いまではすっかりずぼらなオトナの一員だが、それでも、洗濯していたことを忘れていたのに気がついて、あわてて洗濯物を取り込むときには、すこしだけ後ろめたい感じがする。