MEMORANDUM

  ほたるの宴

◇ 幽鬼めいた螢の火は、今も夢の中にまで尾を曳ゐているやうで、 
谷崎潤一郎 『細雪』

◆ 6月16日、湯河原。ホタルをひさしぶりに見た。小学校以来のことだから、ほとんど初めてのようなものだ。骨休めに温泉にでもと、湯河原へ行った。東海道線湯河原駅で降り、改札を出ると、「ほたるの宴」 と書かれた立看板が目にはいった。温泉以外になんの計画も立てていなかったので、ホタルが見られるとは降って湧いたような幸運だな、と思ったのもつかの間、よく読むと、期日が 「6月1日(水)~6月15日(水)」 と記してあった。なんだ昨日までじゃないか! まったくのぬかよろこび。今度はなんだか損した気分。そうなると、あちこちに目につく立看板が恨めしい。終わったんなら、さっさと撤去すればいいのに、とやつあたり。しかし、どさまわりのホタルでもないかぎり、期日が昨日までだからって、さっさとよそに行ってしまうわけもあるまいに。そう毒づきながら、もう一度立看板の日付を確認してしまう自分が情けない。すると、あら不思議、幸運がふたたび降って湧いた。立看板にはいつのまにか「6月19日(日)迄開催期間延長となりました」と書かれたシールがペタリ! 最初に見たのはシールを貼り忘れた立看板だったらしい。情けないほどしつこい性格でよかった。

◇ 水の清らかな湯河原ならではの初夏のイベント! 毎夜万葉公園の水際に、源氏蛍が舞い踊ります。万葉公園の蛍は、幼虫まで万葉公園内の“ほたる小屋”で飼育され、3月中旬湯河原小学校2年生の手によって放流、その後自然発生しています。その他、藤木川、千歳川・新崎川沿いにも天然のホタルが数多く生息し、ほたる発生期間中には、湯河原町全体で、ほたるを楽しむ事が出来ます。
www.yugawara.or.jp/hotaru.htm

◆ というわけで、旅館に荷を降ろし、そそくさと風呂に入り、そそくさと夕食を食べ、いそいそと 「ほたるの宴」 が行われている万葉公園へと出かけた。心配だった雨もほとんど止んでいた。暗い公園内の散策路を歩いて行くと、さらに暗い一画に、ホタルが音もなく飛び交っているのが見えた。この世のものとも思われぬなんとも名状しがたい美しい光景だった。

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