MEMORANDUM

  余ったチケット

◆ 手元に知り合いからもらった美術展の招待券が2枚あって、だれか一緒に行くひとはいないかと心当たりを探してみるが、見つからないまま会期も終わりに近づき、しようがないのでひとりで行くことに決める。そんなとき、余った1枚のチケットをどうするか。チケット売り場に並んでいる列の最後尾にいるひとに進呈することしよう、そう決めて美術館へと向かう。なにを期待するわけではないけれど、たまたま一番後ろに並んでいたひとが、ほっそりとした若い女性で、声をかけるのを一瞬ためらった隙に、小太りの中年のオバサンがふたりどこからともなくやってきて、「あら、チケットあまってるの? 遠慮なくいただくわ」と、こちらがなにも言い出さないうちになぜわかったのか不思議なのだが、手を差し出してしまっている。そのときにようやく、前の若い女性が何事かと後ろを振り向き、その顔を初めて目にしたところが、「ああ! なんという運命のいたずらだろう、ワタシは千載一遇のチャンスを逃してしまった!」、と思わせるほどの器量の持ち主だった。ワタシはもはや展覧会を観る気力が失せている。オバサンたちに、「はい、どうぞ」とチケットを2枚手渡して、そそくさと美術館をあとにする。そんな悲劇か喜劇かわからぬハナシを妄想しながら、美術館に着き、チケット売り場の列を確かめる。最後尾は、真面目そうな若い男性で、さいわいなことに、悲劇も喜劇も起こりはしなかった。

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