MEMORANDUM

  入梅

◆ 梅雨はうっとうしい。梅雨は鬱陶しい、と漢字交じりで書けば、その鬱陶しさも倍増する。梅雨が好きなひともそういまい、と書きつけてすぐに、

◇ 梅雨は嫌いな季節ではありません 恵みの雨だしね 空から水が降ってくるなんてなんていう奇跡なんだろ、とかね さっそく傘をさしながら自転車で遠出
www.fuki.sakura.ne.jp/~burabura/nikki0406.html

◆ という文章を読んだが、無視することにする。梅雨がやってくるたびに気になるのは 「入梅」(にゅうばい) というコトバで、そもそも語感がよくないと思う。鬱陶しさがますます募る。「梅雨入り」(つゆいり)の方がいいんじゃないかと思う。これは好みの問題だから、どうしようもないが、それよりも気にかかるのは、この 「入梅」 という語を梅雨入りの意味ではなくて、梅雨それ自体を意味する語として使用するひとがいることで、これまた方言の問題だから、さらにどうしようもないことだが、ワタシは入梅というコトバが梅雨そのものの意味で使われるのを、東京で初めて耳にした。京都では 「入梅」 というコトバそのものを聞いたおぼえがないし、札幌には梅雨そものもがなかった。

◇ 東京の人は梅雨の事を入梅と言います。梅雨が始まる時はその言葉が合っていますが終わる時も、そろそろ入梅も終わるねとか入梅が明けると言います。入梅は東京の方言だと私は思っています。
www.eonet.ne.jp/~kwhr/bbs.htm

◆ チェンバレンの 『日本事物誌』 にも、

◇ the "rainy season" (nyūbai)
Basil Hall Chamberlain, Japanese Things, (Tuttle, p.96)

◆ とある。けれどもワタシは、梅雨の意味での入梅というコトバを初めて聞いたとき、方言としての用法があるとは知らなかったものだから、そのひと独自の言葉遣いなのかと思った。ありていに言えば、間違った言い方だと思い、訂正したくなった。

◇ 梅雨が来ると思いだすのは、祖母が「入梅」という言葉を「梅雨入り」という意味ではなく、「梅雨」と同義に使用していたことである。浅はかだった自分は、祖母が入梅という言葉を使うたびに、「お祖母ちゃん、入梅っていうのは梅雨入りのことを言うんだよ」と偉そうに指摘したものだが、後日、辞書を引いてみたら

【入梅】 ①つゆに入ること
     ②[東北から中部までの方言]つゆの季節。 

(三省堂新明解国語辞典第五版より)

と、日本語として「入梅」が「梅雨の季節全体」を指すものであることがはっきり書かれており、誰に知らせたわけではなかったが、無知な自分がとても恥ずかしかった覚えがある。
ishiko.way-nifty.com/ytmlog/2004/06/post_4.html

◆ (とてもステキな文章だと思ったので) 長々と引用したが、ワタシもまた無知な自分がとても恥ずかしい。言わなくてよかった。とはいえ、やっぱりこれはもともとは誤用だろうと思う。誤用が広まってしまえば、もはや訂正は効かず、辞書にも採用される。

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COMMENTS (1)

石公 - 2005/06/28 05:36

トラックバックいただいきありがとうござました。引用していただいて光栄です。

サイトを拝見して、どのページも非常に心地よかったのですが、特に「随想」と「ものづくし」は大好きな手法ですし、静かな語り口とあいまって、このMemorandumのページは好みです。これからも楽しみに読ませていただこうと思います。

ちょうど昨晩、「ノミ・ソング」という上映中の映画の感想を「木星のボビー、火星のクラウス」というタイトルで書きました。最近気に入っている、映画とはまったく別の小説の登場人物と、映画の主人公それぞれにちなんだタイトルなのですが、絶妙のタイミングで土星の方からもお声がかかって、何だか嬉しかったです(笑)。ありがとうございました。

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