MEMORANDUM

  駅で寝台列車を

◆ 5月19日、京都から新幹線で東京駅に着いて、連絡通路を中央線のホームへと向かったところが、発車案内板の寝台特急の表示にそそのかされて、長距離列車用のホームの階段をつい上ってしまった。停まっていたのは、「サンライズ瀬戸」(高松行)&「サンライズ出雲」(出雲市行)。

◇ 山陰エリア・四国エリアと東京を結ぶ寝台特急で、「サンライズ出雲」「サイライズ瀬戸」を岡山で分割・併決して運転しています。車内は住宅メーカーと共同で設計し、木の温もりを生かしたインテリアに統一。寝台は全て個室で、サンライズツインやシングルデラックスなど設備も多様です。
www.westjr.co.jp/gallery/train/mi285_1.html

◆ なかなか豪華な車両で、思わず乗りたくなる (だれだって中央線の通勤電車に乗るよりは個室の寝台特急の方がいいだろう)。個室のせいか始発駅から乗客はみなすでにくつろぎモードにはいっている。高松か出雲、行くなら出雲がいいな、などと乗りもしないのに勝手なことを考えている。京都から到着したばかりだというのに。いや、こんなことを考えるのは、むしろそのせいかもしれない。いつだって旅から帰ると、到着した空港や駅で、ほかの飛行機や列車の行方を気にしてしまう。あの飛行機はあの列車はどこに行くのだろう? あれに乗ってしまえば? いまなら、まだ旅を続けることができるかもしれない、まだ旅は終わっていない、そんなふうに旅の終わりをできるかぎり引き延ばそうとする。

◇ あるとき、夜にミラノの駅に到着したロラン・バルトは、霧がうっすらとたちこめるプラットフォームに立ちながら、別の列車が出発しようとしているところに出くわす。その列車には車輌ごとに、「ミラノ ‐ レッチェ」と記した黄色いプレートが掛けられている。レッチェとはどんな邑(むら)だろうかと、バルトは夢想する。この列車に乗ってひと晩旅行したなら、明日の朝にはまだ自分が一度も降り立ったことのない南の、暖かく静寂に満ちた邑に着くことができるのだ。彼はたった今、パリから北イタリアのミラノに着いたばかりだ。けれども「美しいイタリアは、いつだって、より遠い、別の場所にある」と思う。
四方田犬彦 『旅の王様』(マガジンハウス,p.75)

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