◆ 図書館で、『日本の名随筆 別巻24 引越』(中村武志編,作品社) を借りて読んだ。なかでも津島祐子の文章に惹かれた。 ◇ 赤ん坊だった頃の記憶はないから、この十歳の時の引越しが事実上、私にとってはじめての引越し体験だった。私の家の引越しのためにわざわざ細い路地の奥まで入ってきてくれた、長い間憧れの的だった引越しトラック、がらんどうになった家のなか、引越し前に取り払われてしまった板塀、ダンボール箱二個にまとまってしまった私の荷物、台所の食器を片づける前に母親が大量に作っておいたいなり寿司の包み、積み上げた荷物のなかで窮屈に寝たその家最後の晩、こうした光景に加えて、引越しの当日、最後に家族が移る時、走り出したタクシーに怯えて、私の膝から窓を越えて外に飛び出しトラックに轢き殺された犬、更に半年後、その家で病死した兄のことまで、引越しの体験に加わるのだ。 |
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