MEMORANDUM

  東大の落書き

◆ 引越屋というのはどこへでも行くので、先日は本郷の東大構内に入った。法学部の研究棟とおぼしき建物のエレベーターに乗るにはまず暗証番号を入力する必要があった。と、こんなことを思い出したのも、たまたま読んでいた本の一節に、東大法学部のはなしが出てきたからで、

◇ 私が生まれてはいった東京大学は、廃墟であった。催涙ガスの充満している荒れ果てた法学部研究室、「解放区」となぐり書きされた夕暮れの教授室は、散乱している書物とガラスの破片、バリケードになったイス、突き破られた木のドアが、歴史的瞬間を記録していた。
寺山修司 『誰か故郷を想はざる』(角川文庫,p.189)

◆ というのは、1969年の安田講堂陥落前夜の情景だが、

◇ 法学部の暗闇のなかで、瓦礫に懐中電灯を照らして読んだ落書きの一つに「人類が最後に罹るのは、希望という病気である」
Ibid. p.190

◆ というのがあったそうで、その「落書き」からまた別のことを思い出した。一時期、大学の寮に住んでいたことがあって、そのわたしのベッドというか寝台の壁にも落書きがあった。細かな表記は自信がないけれども、それは、

◇ 世の中に寝るほど楽はなかりけり 浮世の馬鹿は起きて働く

◆ というものだった。その寝台のなかで、毎日この戯れ歌を目にしながら、惰眠を貪っていたのだった。そうして、この落書きに歴史的価値が、もちろん、あるわけはない。

関連記事:

このページの URL : 
Trackback URL : 

POST A COMMENT




ログイン情報を記憶しますか?

(スタイル用のHTMLタグが使えます)