MEMORANDUM

  箒は天井を突っつくためにある

◆ というわけで、ハリガネムシというムシ(といっても普通の意味での虫ではないが)のことを書くのは止めにしたが、この小説を読んで別のことを思い出した。

◇ 「音楽音楽」と言うのでラジオを点けると巨大な音が鳴り、暫くするとドンッドンッと床下から突き上げるような音がした。「下の住人が箒で突っついてるだよ」とサチコはここに何年も住んでいるような顔で平然と言い、私はこの女の世慣れた態度にいたく感動した。(p.418)

◆ 場面は夜、高校教師の主人公が住むアパートの二階(だと思う)の部屋。サチコというのは主人公のところに転がりこんで来たソープ嬢。と解説はここまでにして、あとは自分の話。

◆ わたしは二階建てアパートの一階に住んでいる。ナントカ荘という屋号に恥じない安普請のボロアパートで、当然ながら、壁も床も天井も限りなく薄い。ので、暗黙の了解として、住人はみな押し黙って生活している。のだが、数年前に越してきたのが音楽好きの若者で、アコースティックギターなんぞを弾きながらオリジナルの歌の練習なんぞを繰り返すもんだから、こちらは少々ノイローゼ気味になった。そんなある日、相変わらず、未完成の音をもちろん予告もなくしかも間歇的に聞かされる事に耐えられなくなり、手頃な箒がなかったので、手許にあった「突っ張り棒」で思い切り天井を突っついた。ドンッドンッ。すると効果テキメン、とたんに音は鳴り止んだ。しばらくして、二階からすごい勢いで駆け下りてくる足音、続いてわたしの部屋のドアを激しくノックする音。わざわざ謝りに来たのだなと考え、ドアを開けると、いきなり顔を殴られた。
 その若者の言い分は、ちゃんと二階の部屋まで来て迷惑である旨を伝えてくれればよかったのだ、いきなりのドンッドンッではびっくりするじゃないか、というものだった。なるほど。その若者も知らぬ間に引っ越していって今はいない。ついでながら彼の作る歌は悪くはなかった。もしかすると、いまごろどこかでデビューしているかもしれない。

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