◆ 先日、引越の仕事に行った山際の一軒家に猫がいた。薄いキジトラの上品そうな猫だった。作業を始めたときには、食卓の下で不安そうにこっちを見ていたが、そのうちどこかに姿を消した。しばらくして、二階の子供部屋の整理をしているときに、なにげなく出窓の開ききっていないカーテンのうしろをのぞいてみると、そこに猫がいた。かくれんぼで見つかったみたいに困った顔をしていた。もうほかに隠れる場所を思いつかないのか、恐怖で足が動かないのか、じっとこちらを見つめていた。子どもは「猫をダンボールに入れよう」などと言っている。カーテンをはずすのは最後にすることにして、その場を離れた。数時間後、すべての搬出が終了したので、猫の写真でも撮らせてもらおう、と思い立った。しかし、肝心の猫がいない。どこにもいない。名前を読んでも返事がない。けっきょく、最後まで猫は見つからなかった。裏山に隠れてしまったのだろうか? いまでも?
◆ カーテンのうしろに隠れていた猫の表情が忘れられない。画像の猫にちょっと似ていた。そういえば、この猫も引越のときに、はずして立てかけてあったフスマの陰に心細そうに隠れていたのだった。