◆ 「大徳寺前の灸しちくやいと」と書かれた看板の「し」の字を見て、あるいは、「しもせやはし」と書かれた橋の銘板の「し」の字(ふたつある)を見て、またあるいは、「食堂しげみつ」と書かれた看板の「し」の字を見て、
◇ いいなあ、この「し」の字は。
◆ と思ったひとも、なかにはいるかもしれない。上に点を打ったような字体の「し」。
◇ それにしても、この「し」の字は懐かしい。
ほら、「おもてパン屋でうらめしや」のあの「めしや」の「し」の字だと、もってまわった言い方で、今度は小学生の娘には話したら、「めしやって、ごはんだけでるの?」と聞き返された。たまには古典的「めしや」にも連れていかねば。
木下直之『ハリボテの町 通勤篇』(朝日文庫,p.54)
◆ なるほど、この「し」の字はたしかに懐かしい。それと同じく、古典的「めしや」もまた懐かしい。