MEMORANDUM

  間(あいだ)

◆ 本を読んでいて、たとえば、

◇ 人間というのは「人と人の間」と書くごとく、その「あいだ」にことの真(まこと)はある。決して己の内にのみあるわけでもなければ、相手の内にのみあるわけでもなく、たがいの「あいだ」にある。
車谷長吉 『錢金について』(朝日文庫,p.51)

◆ というような文章に出くわすと、もういけない。ぎょっとして、読みすごせない。人間というのは「人と人の間」と書く? 「人間」というのは、「人の間」と書くのであって、「人と人の間」とは書かないだろう。そうではないのか? たんなる話の枕だとは承知しつつも、あれこれ考えてしまって、先に進めない。なんとも難儀な性分である。

◆ 後ろに「間」がつくコトバをいくつか思い出してみる。雲間、波間、谷間、昼間、山間。雲間は「雲と雲の間」の意味で、波間は「波と波の間」の意味かもしれないが、谷間は「谷と谷の間」の意味じゃあないだろう。昼間は「昼と昼の間」の意味じゃあないだろう。山間は「山と山の間」のことなのかどうか、よくわからない。

◆ 風間というコトバは、辞書(『大辞林』)を引くと、ふたつの意味があるようで、ひとつは「風の絶え間」、もうひとつは「風の吹いている間」。風が吹こうが、風が止もうが、どちらも「風間」であるらしい。なんとも難儀なコトバである。

◆ 難儀なコトバといえば、食間もまた同じ。辞書(『大辞林』)には、

(1) 食事と食事の間。
(2) 食事をしている間。食事中。

◆ とあって、これでは食間に服用と指示された薬をいつ飲んでいいのか迷ってしまうひとがいるのも当然だろう。たとえば、《Yahoo!知恵袋》に、

◇ 大正漢方胃腸薬に書いてある、「食間」を「食べている最中」という意味だと思っていませんでしたか?? これは私の愛用の薬ですけど、ついこの間まで食間の意味を知りませんでした。。m(_ _)m 食間って食事と食事の間なんですね!
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1221974917

◆ そして、この「質問」にたいする「ベストアンサー」は、

◇ 実は・・・私が それを知ったのは ほんの数年前で、それまでは 食事中に飲んでました。運良く?元薬剤師のママ友ができて 彼女から教えてもらうまでは。その彼女に聞いた話しでは、座薬を座って飲む人もいたとか。なので、私達は まだいい方ですよね♪

◆ きりがないので、冒頭の引用の「人間」にもどる。人間の場合、意味としては、「人と人の間」ということになるのかもしれないが、表記としては、「人の間」であって、それをわざわざ、

◇ 人間というのは「人と人の間」と書くごとく、

◆ と敷衍して冗長に書く理由が、よくわからない。もしかすると、「~間」という表現には、自然に「**と**の間」という、ふたつのものを想定した形式を強制するような力があるのかもしれなくて、あくまで想像ではあるが、「人の間」では、どうも「すわりが悪い」と感じて、「人と人の間」に落ち着いたのかもしれない。とはいえ、ワタシとしては、「人の間」で十分である気がする。「日本人の間では」という表現をいちいち「日本人と日本人の間では」と翻訳して理解するひとは少ないだろう。それと同じではないか?

◆ そういえば、行間というコトバもあった。「行間を読む」などという。「行と行の間」の何も書かれていないところに何かを読むというのは、かなり高度な技能だろう。ワタシなど、ご覧のとおり、本の一行を読むだけで四苦八苦していて、いつまでたっても行間など読めそうにない。

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