MEMORANDUM

  どじょうの蒲焼き

◆ 吉田健一の『私の食物誌』を読んでいたら、そのなかに「石川県の鰌の蒲焼き」があって、うれしくなったので、引用する。

◇  これを広く石川県の食べものとして置くのは前に或る特定の町で食べたこの鰌(どじょう)の蒲焼きが実に旨かったと書いた所がそのような下等なものを食べさせたとあっては我が町の名折れであると怒られたことがあるからで、又それはそれで石川県のように土地が肥沃であれば水田の付近ではどこでもこの上等なものが食べられると考えて先ず間違いなさそうである。
 これは恐らく偏に石川県の鰌がそこの土地と同様に肥え太っていて美味だということによっている。初め見た時に鰌とは思わなかった位大きいのだからそういう発育がいい鰌であることは確かであって脂の乗り方も上々であり、それが鰻(うなぎ)の蒲焼きのやり方で焼いてあって鰻とはどこか違った風味があるのだから旨くなければ可笑しい。或は脂が乗っていても鰻程でないのが却ってしつこさが取れていいのかも知れなくてこういう鰌が餌を探して泳ぎ回り、或は泥に潜っている水田というものが蒲焼きの味から何となくその辺に拡がっている感じがする。

吉田健一 『私の食物誌』(中公文庫,p.54)

◆ 上の文章が書かれたのは、1970年くらいだろうか。そのころ「下等なもの」であったドジョウも最近ではずいぶん出世したようで、

〔どじょうの唐揚〕 ドジョウって鍋にするのじゃないの。何て聞こえてきそうですが、ドジョウ本来の美味しさはこちらが上。加賀料理では、串にさして蒲焼にして料理屋さんでもお出しする位の高級品になってしまいましたが、唐揚はまだ誰でも美味しく作れるB級グルメのままで〜す。
www.oishi-mise.com/dojyou-kara.htm

◆ それでも、「高級品」というのは言いすぎじゃないか。身近にドジョウがいなくなり、値段が上がったということはあるのかもしれないが。

◆ ドジョウは、鍋にしたり、唐揚げにしたり。でも、蒲焼きがいちばんおいしい。母の実家が石川のとなりの富山にあって、こどものころ、よく食べた。ドジョウとは思えないほど大きなのは食べたことがないけど。こどもの目には、黒く焦げて正体不明のそのものは、ちょっと不気味ではあったけど、苦くて甘い不思議なたべもので、そのころおいしいと思って食べていたのかは憶えてないけど、いまは大人だから、とってもおいしい。もちろん、酒のツマミ。

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