◆ フランス文学者というと、今年1月17日、阿部良雄、急性心筋梗塞で逝去。74歳。以下、松浦寿輝による弔辞の一部(《筑摩書房 PR誌ちくま 2007年3月号 追悼・阿部良雄 弔辞──阿部良雄先生を送る 松浦寿輝》)。 ◇ 一つ一つの言葉を、単に辞書に載っているその字面の意味が 「判る」 というだけではなく、その重さ、色合い、手触り、匂いまで含めて精密に、厳密に理解しないかぎり、何を判ったことにもならないのだということ。それはひどく手間のかかる困難な営みではあるが、小さな石を一つ一つ積み上げて塔を築いてゆくようなその労苦は必ず報われるのであり、小さな出っ張りに辛うじて指をかけてじりじりと体を引き上げてゆくような忍耐強い作業によって、人は或るとき、それまでより格段に広い地平を見渡すことができる場所に立っている自分に気づいて驚く瞬間を確実に体験しうるのだということ。そうした基本的な読みの労働をないがしろにして威勢のよい主張を繰り広げる批評だの、口当たりのよい通念をほどほどの水準でまとめるというだけに甘んじている研究だのは軽蔑すべきであること。それが阿部先生の教えでした。 |
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