MEMORANDUM

  被害者感情

◆ むずかしいこともわからないが、かんたんなこともわからない。《長崎市長選、長女号泣も市民世襲NO》 というニュースを読んだ。

◇ 現職の伊藤一長氏(享年61)が選挙運動中に射殺された長崎市長選で、伊藤氏の後継として立候補した娘婿の新聞記者、横尾誠氏(40)が、同じく補充立候補した元市課長、田上富久氏(50)に敗れた。「悔しさを表すには私が出るしかなかった」 と述べたが、世襲への批判は予想以上に強かった。妻で伊藤氏の長女優子さん(36)は 「長崎市民に、父はその程度の存在だったのか。父が浮かばれない」 と叫び、ショックのあまり倒れ込んだ。 〔中略〕 4選を目指していた伊藤氏は、圧勝が予想されていた。それだけに、落選の報に支援者も、放心状態。「殺された上に負けるなんて。むごすぎる」。男性支援者は涙ながらにつぶやいた。
www.nikkansports.com/general/p-gn-tp0-20070423-188532.html

◆ 殺された上に負けるなんて。もちろん殺された人物が選挙に負けたのではない。選挙に落選したのはまた別の人物である。それを同一視させるような風土があるところにはあるのかもしれないが、長崎市においては今回、それが絶対多数ではなかった。

◆ 被害者感情というコトバがある。被害者の感情という意味だろうと思う。これはむずかしくない。だが、《【主張】 少年法改正案 犯罪低年齢化でやむなし》 とする社説(産経新聞)を読むと、とたんにわからなくなる。

◇ 平成9年の神戸の連続児童殺傷事件を契機に、まず少年法が改正され、刑事罰の対象が、16歳以上から14歳以上に引き下げられた。次に16年の佐世保市での小6女児同級生殺害事件など14歳未満の少年の凶悪犯罪が相次ぎ、今回の法改正の動きにつながった。 〔中略〕 また、時代の流れでもある被害者感情に配慮したことも、改正案可決に結びついた。18日の衆院法務委員会で、改正案を野党の猛反対を押し切って与党だけで可決したことについて、安倍晋三首相は 「被害者の気持ちも踏まえれば、やむを得ない」 との感想を述べた。その通りであろう。
www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070420/shc070420001.htm

◆ ここでの被害者感情とはなんだろう? 殺人事件の被害者の感情という意味だろうか? 殺されたものの気持ちをどのようにして斟酌し 「踏まえる」 ことができるのか? それがわからない。それともこの被害者というのは殺された本人ではなく、その遺族のことなのだろうか? 遺族も被害者といえば被害者だが、自らを殺されたという被害と身内のものを殺されたという被害では、その被害というコトバの意味がまったく異なっているだろう。

◇ 「被害者感情を考えれば死刑存置もやむをえない」 という意見をよく聞きます。また、私たちに「被害者の人権をどう考えているのか」 と詰問してくる人も、ときどきいます。
homepage2.nifty.com/sobanokai/soba0407.html

◆ 「被害者の人権」 というコトバもよくわからないが、殺人事件にかんして言われる 「被害者感情」 というのは、おおむね遺族の心情のことであるようだ。

◇ 死刑存置論者が最後にぶちあたる難問は誤判の問題だと言われ、廃止論者の最後の壁は被害者感情だと言われ続けている。殺人者を死刑にしなくては、遺族の気持ちは収まらないというのである。
homepage1.nifty.com/no-name/zatsubun/ron004.htm

◆ 殺された本人の気持ちと遺族の気持ちとは同じではない。同じかもしれないが、それを知る術はない。さらに、生きている遺族の気持ちでさえも、容易にはわからないはずなのだ。

◇  さらに、被害者感情といっても、それ自体マスコミ等により作られることも無視できない。
 娘を殺害されたある遺族はリポーターの 「犯人を憎んでいるか」 という質問に、「憎んでも仕方がない。今は故人の冥福を祈るだけだ」 と応えたところ、執拗になぜ憎まないのかと食い下がられ、その後 「被害者は実の娘ではなかった」 などと報道されたという。マスコミにとっては、報復感情を露わにする遺族こそが 「理想」 であり、犯人を赦し、理解しようという遺族は許し難いものと映るのだろうか?
 また、広く社会一般についてみても、外国籍の被告人による強姦殺人事件の父親が 「犯人が生まれ変わることが娘への供養。将来出所したら自分の工場へ迎えてもよい」 と述べたり、同じく遺族となった弁護士が 「被告人が望むなら、自分が弁護してもよい」 と述べた事件では、あろうことか遺族への非難、中傷が集中したという。

Ibid.

◆ 他人の気持ちは、そうかんたんにはわからない。

◇ 死刑制度は必要です。あなたのような、かっこつけているような意見を見ると、むかつきますね。自分の妻子が残酷な方法で殺された人の気持にも少しは思いを至らせるべきだと思います。
blog.livedoor.jp/gegenga/archives/50494016.html#comments

◆ いくら思いを至らせても、わからないものはわからない。それにしても、殺された本人の気持ちはいったいどこへ行ってしまうのだろう。「おいおい、殺されたのはこのオレだろ? なんだい、オレの気持ちを聞きもしないで・・・」

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