MEMORANDUM

  箪笥

◇ 神楽坂から市ヶ谷方面に少し足をのばすと 「箪笥町」 「納戸町」 「細工町」 といったなんとも風情の有る町名に出くわします。
ladoclub.lado-blog.jp/2006/07/post_87.html

◆ で、箪笥町(たんすまち)。この町名、単純にタンスを作る家具職人が住んでいた名残かと思っていたら、どうも違うらしい。

◇ 東京都新宿区に箪笥町という地名があります。もちろん箪笥を作っていた町ではなく、江戸城四谷門の甲州街道の警護の町でありました。箪笥には武器を意味することもあったようです。武器を管理するお役人を御箪笥奉行とよんでいました。
scn-net.easymyweb.jp/member/uf_uehara/default.asp?c_id=3900

◇ 「箪笥」 と聞くと、引き出しのある 「タンス」 を思い浮かべますが、この、箪笥町の 「箪笥」 は、“家具” ではなく、“武器” に関係するものです。江戸時代、箪笥町の辺りには、幕府の武器をつかさどる具足奉行・弓矢鑓奉行組同心の拝領屋敷がありました。幕府の武器を総称して、「箪笥」 と呼んだことから、正徳3年(1713)年、町奉行支配となった際、町が起立し、牛込御箪笥町となりました。その後、冠称の 「牛込」 がとれ、現在の箪笥町という名前に至ったのです。
www.soumu.metro.tokyo.jp/01soumu/archives/edo_town_name.htm

◆ 箪笥といえば、『箪笥』 という韓国のホラー映画があった。この映画を見ると(見てないが)、a skeleton in the[one's] closet という英語の表現を思い出す(と思う)。クローゼットの中のスケルトン。世間に知られでもしたら、とんでもないことになるだろう秘密。

◇ a secret that would cause embarrassment if it were known. People almost always have skeletons in their closets, parts of their lives they don't want to reveal.
Cambridge Dictionary of American Idioms

◆ あるいは、カップボードの中のスケルトンともいう。カップボードもいまではそのまま日本語として流通しているような気もするが、それを食器棚と訳してしまえば、骸骨が入れられる食器棚とはどんなだろうと気になりはしないか?

◇ 英語のイディオムに “a skeleton in the cupboard [closet]” という言い方があるのをご存じですか。世間に公表するのをはばかる一家の秘密のことをこう言うのですが、文字どおりには 「戸棚(あるいは押し入れ)の中の骸骨」 という意味です。考えてみるとなかなか味のある表現ではありませんか。まるで、誰かを殺害しておいて、死体を押し入れのような暗い場所に隠しておく、そのうちに時間がたって死体が白骨化し、すっかり骸骨になってしまう、一族の者はそのことに堅く口を閉ざして生涯をおくる、ふとした折そのことで一族の間に争いが起こり、自分の家系が呪われていることをあらためて思い知らされる・・・ ちょっとしたミステリーが組み立てられそうな不気味な言い方ですよね。
engserve.edu.mie-u.ac.jp/eg5005/frame1F.html

◆ 死体を入れておくとすれば、日本ではやはり押入れだろうか。

◆ 現代美術作家の嶋田美子に 「箪笥の中の骨」 という作品がある(が見てない)。

◇ 1996~7年の一連の展覧会でも引っ張りだこだった 嶋田 美子 の 『箪笥の中の骨』 (2004)は、英語の成句 “skelton in the cupboard” (食器棚の中の骸骨=家庭の秘密)をそのまま形にした作品だ。家庭のミクロポリティスクをマクロなポリティクスに繋いでいくような所は相変わらずで、悪くはない。しかし、この箪笥にしまわれていた 「家庭の秘密」 を読んでいて、ミクロポリティクスの現実を突きつけられるというより、インターネット上の匿名の掲示板 「発言小町」 (大手小町, YOMIURI ON-LINE)を読んでいるような気分になってしまった。もはや 「家庭の秘密」 は 「箪笥の中の骨」 のようなものではなくなってしまっているのかもしれない。
www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/05031201

◆ ワタシの部屋にはちいさな整理ダンスがひとつあるだけで、これに骸骨ははいりそうもない。

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COMMENTS (2)

タネ - 2006/12/26 22:28

半村良の 能登怪異譚
 箪笥の上に家族が乗ってしまう不条理な小説 
これを読んだあと家の箪笥上をちらちら見ていました
怖かったです

rororo-rainer - 2006/12/27 14:24

六本木2丁目、谷町ジャンクションのところに、むかし「たんすほどうきょう」がかかっていました。
かつては麻布区箪笥町だったろうと思います。
死体を入れた箪笥は19世紀パリの観光名所だったと読んだ覚えがあります。誰の本だったかなあ。

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